あの日、涙を流しながら全てを俺に打ち明けたあと、ぼんやりと窓の外の雪景色を見ながらのんちゃんが言った。
『ねえ、モト君。知ってる?』
『何を?』
『イトコ同士って結婚できるの』
『……知ってるよ』
『なんでかなあ。血が繋がっててもイトコだったら結婚できるのに、私と慎ちゃんはだめなんだよ』
『……うん』
『変だよね。べつに同じ人から産まれたわけでもない、ただ種が一緒ってだけなのに。ずっと赤の他人だったんだよ。十何年もお互いのこと知らないまま育って、普通に出会って普通に恋しただけなのに』
『……うん』
『──なんで私たちは一緒にいちゃだめなのかなあ』
その問いに、俺は答えられなかった。
答えられるはずがなかった。
適当に一周し、みんなが待つ場所へ戻っていく。
こうして二人きりで話せるのは、残り数分しかない。
「のんちゃんさ。最後に一つだけ言っといていい?」
「何?」
「なんだと思う?」
「からかってる?」
後ろにいる彼女の表情が容易に想像できる。
そんなことが、なんとなく嬉しかった。
可愛いなあ、本当に。
「俺のんちゃんのこと好きだよ」
このタイミングで告げたら、下心があると思われるだろうか。
だけどそんなものは微塵もなかった。
「……うん、知ってた。ありがとう」
だよな、と思った。
のんちゃんと出会ってからの俺は、あまりにもらしくなさすぎたのだ。
我ながら突っ走りすぎていたし(俺にしては、だが)、女の勘などという恐ろしいものをかいくぐることができていた自信はまったくない。
「でも、モト君は絶対に言わないだろうなって思ってた」
「俺も絶対に言わないつもりだったんだけどさ。もうすぐ会えなくなるのかって思ってたら、失恋ってどれくらい引きずるんだろうとか考えちゃって。そしたらなんか、たぶん一年くらいは余裕で好きだろうなーとか思っちゃって。もしそうだとしたら、言っとかなきゃ余計に引きずる気がした」
のんちゃんは、らしくないよ、と言わなかった。
「一年も好きでいてくれるの?」
「うん、たぶん」
「ほんと?」
「うん」
「ほんとにほんと?」
「そう言われると自信なくなってきた」
「そこは最後まで言い切ってよ」
わからない。実際に、一年前には想像もつかなかった今になっているのだ。
だけど、なんの根拠もないのにそう思ってしまっていた。
俺の頭からのんちゃんがいなくなる日を、うまく想像できなかった。
「モト君もそういうこと考えるんだね」
「俺も自分でびっくりしてる。らしくないよね」
「うん、全然らしくない」
のんちゃんは俺の服をぎゅっと掴んで、背中に額を当てた。
「でも、嬉しい。すごく」
こういうことをするからこの子は質が悪い。たった今告白してきた奴に──これから振る奴にする仕草じゃないだろう。