「私ね、絶対に子どもがほしいの。結婚して、子どもを産んで、誰よりも幸せにしてあげたい」

 ごめんね、慎ちゃん。最後まで嘘ついてごめん。
 私、もう子どもできないの。慎ちゃんの子ども、産んであげられないんだよ。慎ちゃんの夢を叶えてあげられないんだよ。

「でも、慎ちゃんとは無理でしょ? 法律的に結婚はできるかもしれないけど、子どもは……やっぱり、だめだと思うんだ」

 無意識に下腹部に手を当てた。
 こうして触れるたびに、ここにいてくれたんだなあ、と思う。産んであげられなくてごめんね、守ってあげられなくて、弱くてごめんね、と罪悪感に呑まれそうになる。だけどそれ以上に、どうしようもなく、愛おしく思う。

 たった一ヶ月の命を、私は確かに愛していた。
 私と慎ちゃんの血を引いた子どもを、最初で最後の私の赤ちゃんを、心から愛していた。

「……陽芽」

 慎ちゃんはとても悲しい目をして、決心したように、私と目を合わせた。

「一つだけ……言っていい? 怒るかもしれないけど」
「ん?」

 慎ちゃんは少しためらいながら、私の髪にそっと触れた。
 最後なんだね。
 慎ちゃんに触れられるの、もう本当に最後なんだね。

「おれ、陽芽との子どもなら──絶対に、嬉しかったよ」

 どうして私が怒ると思ったんだろう。
 そんなの、私にとってはこれ以上ないくらい幸せな言葉なのに。

「……うん。ありがとう」

 ごめんね。もう約束は守れない。
 私は慎ちゃんを幸せにしてあげられない。
 だから。

「今度こそ、本当に、さよなら、しよっか」

 最後に、大好きだよ、と言ってしまいたかった。
 だけど私は言わなかった。言えなかった。

 私がこの想いを断ち切らない限り、慎ちゃんはずっと私という存在に縛られてしまう。
 そんな簡単なことに気づけなくて──馬鹿でごめんね。

「もう連絡取らない。もう二度と会わない」
「……ん」
「私のこと忘れてね」
「無理だと思うけどね」

 私たちは涙を流したまま、下手くそに笑った。

「ばいばい、慎ちゃん」

 どうか忘れてね。
 どうか幸せになってね。
 たくさんのありがとうを伝えないこと、どうか許してね。

 願わくは、どうかこの人が、私以外の誰かを愛せますように。