すぐに麻生まで迎えに来た慎ちゃんの車に乗った。大通公園は行かない。もう外でゆっくり話せるような気温ではないし、寒空の下に何時間もいるのは私自身いい加減懲りたし、何より噴水の前で慎ちゃんに〝さよなら〟を言う自信はなかった。
しばらく車を走らせて、ひとけのない公園の駐車場に停めた。
「なんで……別れたの?」
「先におれが訊きたいんだけど。なんで妊娠のこと知ってたの?」
心臓が跳ねた。
本当のことは言えない。慎ちゃんをずっと騙していたことも、馬鹿げた行動を取っていたことも、慎ちゃんにだけは知られたくなかった。
慎ちゃんに幸せになってほしかったから──なんて、あまりにも一方的で痛すぎる。そんなこと、ちゃんとわかっていた。
「慎ちゃんには言ってなかったけど……美莉愛さんと共通の知り合いがいるの。私が一方的に知ってるだけだけど」
変に嘘をつくとさらにボロが出そうだと思った私は、重要な部分を抜いて当たり障りなく説明する。深く追求されたらどうしようかと身構えたけれど、慎ちゃんは「そっか」とだけ言った。
安堵の息をついて、本題を切り出す。
「ねえ、別れたってどういうこと? 子どもはどうするの?」
「妊娠は嘘だったんだ」
「……は?」
ちょっと、どころじゃなく、信じられなかった。
そんな嘘をつく理由や必要がどこにあるのだろう。慶から聞いていた話である程度予想はしていたけれど、なんだかとんでもない人だ。もっとも、私も似たようなものだけど。
「……じゃなくて」
私が絶句していると、慎ちゃんはくしゃくしゃと頭をかいて、まっすぐに私を見つめた。
「どっちにしろ、もうとっくに無理だったんだよ。おれは、どうしても陽芽が好きだ」
「……でも」
「言っただろ。おれは今持ってるもん全部捨てられるって」
嬉しいに決まっていた。
誕生日に電話をくれたことも、朝まで一緒にいてと言ってくれたことも、好きだと言ってくれたことも。
戸惑いながらも、今まで私がしてきたことが全て無駄になってしまうとしても、全部全部、嬉しかった。