『もう一度会おう』

 慎ちゃんから電話が来たのは、最後のメッセージを送った翌日の夜だった。
 出るべきじゃないとわかっていたのに、私の手はその名前を見ただけで、まるで誰かに手を引かれているように動いてしまう。

「……ばいばいって、言ったじゃん」
『彼女と別れた』
「……え?」

 別れた、って、どういうことだろう。
 だって彼女は──。

「妊娠……したんじゃないの?」
『え?』

 慌てて口を手で覆っても遅かった。
 慎ちゃんは、私の彼氏が美莉愛さんの元彼だということを知らない。慎ちゃんからしてみれば、彼女が妊娠したという話を私が知っているのはありえないのだ。

『とにかく会おう、陽芽。ちゃんと会って話したい』

 ふと時計を見た。もうすぐ慶が帰ってくる。長々と電話で話す時間はないし、そもそも会って話す必要なんかない。どれだけ話したって、会ったって、何も変わらないのだから。

 いくら慎ちゃんが彼女と別れたとしても、私と──実の妹とよりを戻していい理由には到底なり得ない。私たちが血の繋がったきょうだいだという事実は、絶対に覆らないのだ。

 無理だと突っぱねて電話を切れば全て終わる。
 わかっているのに、

「……うん。わかった」

 どうしても、慎ちゃんを拒絶することはできなかった。