父さんがどうのなんか、全部言い訳だった。
本当は、父さんのことなんかどうでもよかった。
美莉愛と別れて父親同士の仲に亀裂が入ったとしても、いくら取引があるとはいえおそらく父さんの会社にそこまで影響はない。多少は困るだろうが、大事にはならないとわかっていた。
そもそも根源は父さんなのだ。何も知らないからといって、過去に犯した罪を帳消しにできるわけではない。友人と取引先を一つ失ったとしても、代償にしては軽すぎるくらいだ。
美莉愛と別れなかった理由は、たった一つだけだった。
おれはただ、婚約者というブレーキがなければ、陽芽への気持ちを抑えきれる自信がなかっただけだ。
「ねえ、今までのことはいいよ。これからお互いちゃんとしよう?」
立ち上がった美莉愛は、立ち尽くしているおれの腕に手を絡める。
このまま美莉愛を抱いて、またずるずると関係を続ける。それが、三年間繰り返してきたパターンだ。また同じことをすれば、何も失わず誰にも迷惑をかけず、一見円満に過ごせる。
だけど、
「……ごめん。無理だ」
美莉愛を抱いているとき、おれが思い浮かべていたのは。
本当に呼びたかった名前は。
「別れよう。──どうしても、好きな子がいる」
ずっと、たった一人だけだった。
この三年間、おれの中にはずっと陽芽がいた。──陽芽しか、いなかった。
父さん、ごめん。
誰を傷つけても、全てを失ってもいい。
おれは、どうしても、陽芽と共に生きていきたい。