「逆ナンじゃないよ。すごいじろじろ見てくるから声かけただけ。服装とか時計とかで金持ちだってわかったし、彼氏いなくて暇だったし。付き合ってみたけど、なんか真面目すぎるし子どもみたいだし一緒にいてもつまんなかったんだよね。しかも獣医学部受けたいって言ってたくせに、結局工学部だしさあ」
「それで慎くんに乗り換えたってこと? しかも慶って子もずっとキープして? うわーひっどい女」
「べつにキープじゃないって。たまに会ってたけどヤッてないし。あたしが呼べば飛んでくるから、暇つぶしにちょうどよかっただけ。慎は仕事忙しいとか言ってあたしのこと放置してばっかりだしさあ。でもいい加減飽きたから、もういいかなって」
「いやいや、充分ひっどい女だからね」
怒りに任せてドアを開けると、二人は弾かれたように振り向いた。
呆気に取られていた二人の顔が、徐々に青くなっていく。友達は慌てて立ち上がり、あたしお邪魔だね、じゃあまた、と早口で言って部屋を出た。
美莉愛は座ったままおれを見上げていた。
おれはその場から一歩も動かずに美莉愛を見下ろす。
「妊娠、嘘だったんだな」
美莉愛は顔を真っ赤に染めておれから目を逸らした。
やがて言い訳は通用しないと観念したのか、再び顔を上げておれを睨みつけた。
「慎が悪いんじゃん!」
「は?」
「大学卒業したのにいつまで経っても結婚してくれないじゃん! 仕事がどうとか言い訳ばっかりするけど、あたしが気づいてないとでも思った? 慎、あたし以外に女いるよね」
ふざけるな。おまえだって他に男がいただろ。それに、実家が金持ちで将来性がある男なら誰でもよかったんだろ。
喉までせり上がってきた反論を口に出すことはしなかった。
おれが美莉愛と付き合っていた理由は、美莉愛がおれと付き合っていた理由以下だったからだ。