お互いが知りうることを話し終えた私たちは、まるで世界の終わりみたいな暗闇の中で佇んでいた。
ただぼんやりと雪を眺めていたとき、慎ちゃんのアウターのポケットから着信音が聞こえた。出ようとしない慎ちゃんを見て、私は直感してしまった。
「彼女……いるんだね」
慎ちゃんは目を見張って、ばつが悪そうに顔を背けた。
「あー……うん。つい最近。よくわかったな」
「どんな人?」
「いいよ、そんな話」
「でも……知りたいの。お願い」
慎ちゃんと同い年で、名前は美莉愛さん。
お父さん同士が友人で、仕事上の繋がりもあり、いずれ結婚することになるかもしれないと言った。おめでたい話なのに、慎ちゃんはずっと苦しそうに語っていた。
写真を見せてほしいと言うと、慎ちゃんは断固拒否した。ちゃんと諦めるためだと訴えて、渋々見せてもらった。
「綺麗な人だね」
「……うん」
「ねえ、慎ちゃん。約束して」
「……ん?」
「絶対に、幸せになるって」
慎ちゃんとは、もう会えない。
きょうだいだからといって、会ってはいけない理由とは直結しないだろう。
だけど、会ってしまえば私は欲求を抑えられない。
今の私にできることは、ただ慎ちゃんの幸せを願うことだけだった。
「……うん。陽芽も、絶対に幸せになれよ」
他の人と、幸せになる。そう約束した。だからお互いの連絡先は削除し、一年後に慶と出会い付き合った。猛アプローチをしてくれる慶を見ているうちに、この人となら、こんなに私を好きになってくれた慶となら、きっと幸せになれると思った。