「──きょうだいなの」
「……は?」
「あなたたちは、血の繋がったきょうだいなの」

 お母さんが放ったたったの一言を理解するのに数分を要した。
 そうだったんだ、とあっさり納得できる人がこの世にいるのだろうか。

 え、とか、あ、とか、そんな単語さえも出てこなかった。手で顔を覆いながらくずおれるお母さんを、ただ呆然と見下ろすことしかできなかった。
 世界が真っ黒になったような、跡形もなく壊れたような、そんな心地がした。あれ以上の衝撃を受けることは金輪際ないと断言できる。

 決して私を見ようとしないお母さんの説明はこうだ。

 私のお母さんは、慎ちゃんのお父さんが経営する会社に一時期勤めていた。妻子持ちだとわかっていながらも恋をして、やがて不倫関係になった。そして慎ちゃんが三歳のときにお母さんが妊娠した。その子どもが私。

 もっとたどたどしく要領を得ない説明だったけれど、時系列にまとめるとこんな感じだ。
 そう、まとめるとたったそれだけのこと。
 だけどそれは、私たちが一緒にいられないこの上なく決定的な、そして覆すことは不可能な理由だった。

「……はは、昼ドラかよ」

 体の中が空っぽになっていく感覚を味わったのは、この日が初めてだった。
 本当にショックを受けたとき、人は涙すら流せないことを知った。

 その直後に今のお父さんと弟を紹介され、予定通り結婚した。私を絶望のどん底に突き落としたお母さんは、自分だけさっさと幸せになり、私に赤の他人との平凡な家族ごっこを強いた。

 昔お母さんが不倫した挙げ句に身籠ったことなどお父さんは知らないのだろう。自分の罪をひた隠しにしてへらへら笑っているお母さんを見るだけで、何もかもぶち壊してやりたい衝動に駆られた。

 そして私が高三の秋、また私の大切なものを奪おうとしたのだ。そんなの、どうしたら赦せるというのだろう。