さっぽろテレビ塔の前でタクシーを降りる。西一丁目から西十二丁目までまっすぐに伸びている、外灯だけに照らされた白い道をただただ走った。逸る気持ちにつられるように、疲れきっていた足がどんどん速まっていく。

 西三丁目に着いたとき、ひときわ大きな噴水が目に入った。もちろん通水はされておらず、雪をかぶって佇んでいる。
 見渡すと、反対側のベンチに人影が見えた。

 のんちゃんは、まるで助けを求めるかのように、誰かが見つけてくれるのを待ち侘びているかのように、小さくうずくまっていた。

 まさか本当にこんなことが起きるなんて。
 もし俺が先に見つけ出したら、それは奇跡だ──と思っていた俺はすでにいない。偶然が勝つこともあるのか、と思った。

 いや、違う。奇跡ではないが、偶然でもない。
 今回ばかりは、つぐみの勘に感謝する。

「のんちゃん」

 声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
 泣いているのだと思っていた。けれど外灯に照らされた彼女は、泣いてなどいなかった。もちろん笑ってもいなかった。かといって悲しそうな顔をしているわけでもなく、表情そのものを失っていた。

 ああ、まただ。
 確かに目が合っているのに、まるで何も映していないみたいに、黒く虚ろな目。

「モト君だったか」

 先に口を開いたのは彼女だった。
 色が灯っていない瞳を俺に向ける。

「何が?」

 ゆっくりと歩み寄り、彼女の前に立つ。

「賭けてたの。モト君と慶、どっちが先に見つけてくれるか」

 ふっと口だけ笑って、彼女は視線を落とした。

「私ね、やっと目的を果たせたの。もういいんだって、全部終わったんだって、喜びたいのに……なんか、もう、疲れちゃった」

 泣いている姿を見たのはたった一度きりなのに、泣いていない彼女はひどく不自然だった。
 泣いている方がまだ自然に思えるほど、彼女は壊れそうに見えた。

「のんちゃん」
「ん?」
「帰ろっか」
「……帰りたくない」
「うちおいで。……他に行く場所、ないんでしょ?」

 俺を見上げた彼女は、ゆっくりと、小さく頷いた。
 雪が降りしきる夜、俺たちは初めて手を繋いだ。