『心配だけど、わたしたちは首突っ込まない方がいいと思うから行かない』
「は? 何言って……」
『のんちゃんはわたしたちに捜してほしがってないと思う。勘だけど』

 少し苛立った。
 今は勘がどうとか言っている場合じゃない。

「なんだよそれ……」
『のんちゃんは、モトに見つけてほしいんだと思う』
「は? 意味わかんねえよ」
『ほんとに心当たりないの? 落ち着いて考えて』
「心当たりっつったって、そんなの……」
『のんちゃんは、ただ無闇に歩き回るほど馬鹿な子じゃないと思う。今までのんちゃんと話してきたこと、細かいことも全部思い出して。モトだけにはヒントを与えてるはずだよ。これも勘だけど』

 ほんの三十分前までなら、そんなわけないと返していただろう。

 ──あいつ、兄ちゃんなんかいないけど……。

 聞けばのんちゃんのきょうだいは弟だけらしく、慶は兄の存在を知らなかった。兄がいるということ自体が俺の聞き間違いかとも思ったが、何度思い返しても確かに兄の話だったはずだ。またのんちゃんの嘘という可能性もあるが、俺にそんな意味のない嘘をつくとも思えなかった。
 つまりのんちゃんは、慶に言っていないことを俺に打ち明けたのだ。自惚れるつもりはないが、これだけは紛れもない事実だ。

 今まで、のんちゃんと話してきたこと。
 雪を落としている空を見上げながら、当惑している頭で必死に考える。出会った日のこと、パチンコ屋で話した時間、花火大会で慶に置いていかれた後ろ姿、カラオケの喫煙スペース、深夜に見かけたあの日。

 ──どこ行くの?

 そうだ。初めて深夜にぶらつくのんちゃんを見かけたとき、たしか──。

「噴水って……どこにある?」
『噴水? どこだろ。大通公園とか?』

 もうとっくに終電は出ているし、歩いたことがないので正確にはわからないが、麻生からだと間違いなく一時間以上はかかる。
 だけど、他に思いつく場所がない。

『どうしても見つからなかったらまた連絡して。起きて待ってるから』

 わかったと返して電話を切った。
 この氷点下の中であと一時間以上も待たせるわけにはいかない。タクシーを拾って、大通公園へ向かった。