慶が俺の家に来て三十分が経っていた。
 誰が電話をしてものんちゃんは頑なに出ず、行方はわからないままだった。とにかく手分けして近辺を捜し続けたが、一向に見つからない。

 札幌にいるとしても、のんちゃんが家を出てからすでに二時間半が経過している。徒歩でも充分に遠くへ行けるほどの時間だ。札幌市内を無闇に捜すなど無謀すぎる。
 それでも、いてもたってもいられなかった。

 と、感情ばかりが先走っていた俺も、すっかり冷えた体につられて頭も冷え、徐々に冷静さを取り戻してきた。

 何をしているんだ俺は。ただがむしゃらに捜すなど俺らしくないし、俺が見つけられるはずがないのに。
 なんだかんだ言っても、俺より慶の方がのんちゃんのことをわかっている。実際、俺は彼女が行きそうな場所など皆目見当もつかない。万が一俺が先に見つけることがあれば、それは奇跡だ。

 そもそも俺は関係ないじゃないか。これは二人の喧嘩であって、二人だけの問題だ。俺が首を突っ込むのはお門違いだし、何かが解決するわけでもない。見つけ出したところでどうなるわけでもない。俺はいつからこんな暑苦しい男になったんだ。

 最近の俺は、いくらなんでもキャラがブレすぎている。
 本当に何をしてるんだろう。
 わかっている。わかっているのに。

 ──モト君は、優しいよ。

 彼女の姿が脳裏に焼きついて、俺を乱す。
 はあ、と白い息を吐き、スマホを取り出して電話をかけた。

「もしもし、由井? 暇?」
『つぐみと一緒だから暇じゃ──』
「のんちゃんがいなくなった」

 少しでも人手がほしかった。須賀たちに言うと大事(おおごと)にされそうなので、それは避けたい。この状況を知らせることができる相手は、由井とつぐみしか思いつかなかった。

 電話越しにも動揺が伝わってくる。
 ひそひそと話し声がしてから、

『もしもし、モト? つぐみだけど。どういうこと?』
「詳しい話はあとで。とにかく、一緒に捜してほしいんだけど」

 わかった、と返ってくると思っていたのに、つぐみは黙り込んだ。
 そして、まさかの返事を俺によこした。