六月初旬、外は快晴。巨大な窓からは溢れんばかりの眩い光が差し込んでいた。
 音楽が鳴り響き、ざわざわと聞こえていた参列者たちの声がふと静まる。会場を包み込むように流れているのは、挙式の入場曲から連想できるクラシックではなく、Jポップのオルゴールバージョンだった。

 参列者全員の視線が一点に集中し、焦らすようにゆっくりと扉が開く。会場が拍手に包まれると、黒のタキシードに身を包んだ新郎がゆっくりと歩きだした。
 無理に平静を装っているせいで余計に動きがぎこちない。さらにこれ以上ないほど顔が強張っていた。見ているこっちが緊張してしまう。

「結婚かあ。いいなあ」

 隣で呟いたのは、大学時代につるんでいた友達だ。
 それなあ、と周囲にいる奴らが同意した。

 一旦閉められていたドアが再び開く。今度は純白のドレスに身を包んだ新婦が父親と腕を組んで登場した。先ほどよりも盛大な拍手に迎えられた二人は、一歩一歩を噛みしめるように進んでいき、やがて父親から新郎へバトンが渡った。

 本日の主役の一人である新郎もまた、大学時代につるんでいた友達だ。当時は毎日のように顔を合わせていたが、卒業後あいつは地元の企業に就職したため必然的に疎遠になっていた。個別で連絡を取り合うこともなく、年に一度仲間内で集まるときに会う程度である。
 それでもこうして式に招待してくれるのだから、友達とはありがたいものだ。

「けど、よかったよな。幸せになってくれて」

 新婦の入場によって中断していた話が再開された。
 こいつが何を言いたいのかは訊かずとも見当がついている。それは俺だけではなく、大学時代を共に過ごした全員に言えることだった。

「それなあ。ちょっとやべえくらい落ち込んでたもんな」
「俺ガチであいつ死ぬんじゃねえかって心配だったもん。無駄に誘いまくって外に連れ出してたわ」
「つっても、もう何年も前の話だろ」
「まあな。五年か六年くらい?」
「五年だよ。たしか三年の終わり頃だった」
「そんなに経つかあ。そりゃ俺らもオッサンになるよなあ」

 俺たちはまだ二十六だから(俺はもうすぐ七になるが)オッサンではない。……と思う。

 参列者はざっと百人前後。俺たちの席は最後方。声量は最小限。チャペルは音楽とマイクを通した司会者の声が響き渡っている。
 よっぽど周囲の人たちには聞こえないだろうが、祝いの席でこの話をするのはいささか不謹慎である。

「結局なんだったんだろうな」
「さあ。訊ける雰囲気じゃなかったし」
「けど気にならねえ? もう訊いてもいいかな? つーか誰も知らねえの?」
「知るわけねえだろ。なんなら思い出させないように全力で神経尖らしてたくらいだわ」
「おまえは? あいつと仲良かったじゃん」

 唐突に話を振られ、一瞬ドキッとする。

「知らないって。まあいいじゃん、今が幸せなら」

 新郎新婦に何度目かの拍手を送りながら言うと、まあなあ、といまいち納得していなさそうな曖昧な声が返ってきた。

 俺は知っていた。六年前のあの日、彼女が俺たちの前に現れてから一年間の出来事を。
 誰にも言うつもりはない。こいつらにも、そして壇上にいるあいつにも。
 俺が墓まで持っていくつもりの、五つの秘密を。