派遣先の物語のあらすじをわたくしはいつも聞かない。最初は、細かな展開から登場人物、世界観までレクチャーを受けてから出発したけれど、それだと退屈で退屈で仕方なかった。文字通り、他人の人生をなぞるだけ。

 破滅するのがわかっていながらその通りに行動するのが難しいのだと、そのための準備が必要だろうとルカは口を酸っぱくしていたけれど、わたくしに限ってはそんな心配がないことを納得すると何も言わなくなった。

 情けをかけて手を抜くとか、非難を恐れて善人ぶるとか、気の迷いを起こすとか、わたくしにはあり得ない。わたくしがいじめたいと思った相手をいじめていさえすればシナリオ通りに上手くいく。悪に優しい世界なんてありはしないのだから。

 より満喫して仕事ができるよう詳細を聞かないでいても、〈悪役令嬢〉が十八番のわたくしが派遣される物語の展開はいつも同じだ。
 わたくしはその国の上位貴族である有力者の娘として生まれ、やがて王位継承者の婚約者となる。そして婚約者をずっと下位の家柄の娘に奪われ悪行を暴かれて断罪される。
 王子がヒーローであり、ヒーローと真に結ばれる少女がヒロインである物語の、わたくしは悪役でしかない。悪役でけっこう。いい人ぶって嫌いな相手に嫌いとも言えない役柄なんてまっぴらだわ。

 今回の配役は第一王子アンリがヒーローで間違いなく、パロ男爵令嬢がヒロインか? というところ。
 わたくしから婚約者を奪うヒロインは、男性ウケが良く自覚のあるなしに関係なく手練手管を弄するタイプなことが多いから、当然のようにヒーローの周辺にいる他の男性からも愛される。

 男心というのは不思議なもので、あの男が惚れたのならば素敵な女の子に違いない、よく見るとすごくカワイイじゃないか、みたいな心理が働くようだ。自分の審美眼に自信がないのね。人が選んだモノなら間違いないだろう、より多くの者が欲しがるモノを勝ち取りたいって闘争意識もあるのかもしれない。

 ヴィルヌーブ子爵が見初めて婚約破棄にまで至ったことを知れば、第一王子アンリもパロ男爵令嬢を気にするようになるのだろう。
 なんにしろ、そんな閉じた世界の内輪だけの恋愛模様を脇で見せられる令嬢たちの目は、冷ややかで偽りなくいつだって本質を突く。だから今回もわたくしは五人の令嬢たちに尋ねてみた。
「どう思われる?」

「どうって……」
 鼻で笑いそうになってあわてたように扇子を広げ、ギーズ公爵令嬢はこほんと咳払いした。そのまま口を閉ざして促すようにラニー侯爵令嬢に視線を流す。当事者のひとりであるボリュー伯爵令嬢シルヴィーと、この中でいちばん親しいのがラニー侯爵令嬢だからだろう。