やわらかな陽光が踊る庭の芝生は青々と目にやさしく、あまりの穏やかさにいっときぼーっと意識を飛ばしてしまったようだった。
「イザベル様?」
「ああ、ごめんなさい。ぼんやりしていたかしら?」
「お疲れなのですわ。毎日王宮へ出向かわれてのお勉強は、イザベル様にとってもたいへんなことでしょう」
「そうね……」

 今のわたくしはニーム公爵令嬢イザベル。この国の第一王子のお妃候補のひとりだった。ほんの数週間前、正式に婚約が決まったのでもうすぐ名実共に唯一の婚約者となる。先立って既にお妃教育が始まり、確かに少し疲れていた。

「にも関わらず、今まで通りにこうして定例のお茶会を開いていただき、わたくしどもにお気遣いくださって、嬉しいです」
「当然よ。ここにいるあなたたちは大切なお友だちですもの」
 ここは敢えて気怠げに背もたれに寄りかかりながら微笑んで見せると、同じテーブルに着く五人の令嬢たちは、控えめに、でも誇らしそうにそれぞれ頬に笑みを浮かべた。

「皆さんに変わりはなくて?」
 まだわたくしの耳に入れていない情報があるならよこしなさい。端的な意図を含ませ話を振る。
 令嬢たちは目配せを交わし合い、わたくしの正面に座っていたギーズ公爵令嬢が口を開いた。

「ボリュー伯爵令嬢がヴィルヌーブ子爵に婚約を破棄されたとか」
 おや? 内心で眉をひそめながらわたくしはことさらゆっくり手にしていたカップをソーサーに戻した。
「ヴィルヌーブ子爵がそんなことを?」
 第一王子アンリの親しい学友のひとりであるが、年齢は五つ上で学識も浅くはなく品性も人並み、馬鹿な男ではなかったはずだ。それでもさっそく毒牙にかかったか。

「子爵はパロ男爵令嬢と一緒にいるところをお見かけすることが多かったですもの」
 全員の顔色を窺いながらラニー侯爵令嬢がそっと口にした。
「ボリュー伯爵令嬢はなんていうお名前だったかしら?」
「シルヴィー様ですわ」
 わたくしの質問にもラニー侯爵令嬢が即答した。

 そうだった、ボリュー伯爵令嬢シルヴィー。家格からいえばこのお茶会に誘ってもいい御令嬢なのだけど、どうにも合わない匂いがしてはっきりいって好きではない感じの少女だった。

 それはそれとして、被害者第一号という存在の登場は気にはなるところだ。わたくし以外に婚約破棄される令嬢が出てくる展開はこれまで渡り歩いてきた物語にはなかった。でもそういうことがあってもおかしくはない。
 今回、こうしてわたくしの耳に入ってきたということは、今はまだあまり交流のないシルヴィーに重要な役割があるのだろうか。