やる気なくすわー。どうしてもうちょっとおもしろいことを言ってくれないのかしら? なんてダメ出ししてもやり直してもらえるわけじゃない。
 ふうっと息をついてから、わたくしはドレスのスカートの皺をのばし襟元も整え、つんと顎を上げ気味にして背筋を伸ばし、コホンと咳払いしながらおもむろに生垣の陰から進み出た。さあ、まずは軽くごあいさつよ。

 生垣を背にして長椅子に並んで腰かけ、身を乗り出すようにしてほとんど顔を向かい合わせていたふたりは、はっとしたように顔を上げた。
「あら、お邪魔してしまったかしら?」
 両手をきちんと体の前面で重ね直立不動の姿勢でわたくしはアンリとシルヴィーを見下ろした。
「え、いや……」
「イザベル様っ」
 すっくと立ちあがったシルヴィーはスカートをつまんで膝を屈めた。
「お久しぶりでございます。シルヴィーです」
「シルヴィー様、ええ、お久しぶり」
 あいさつを交わし合ってわたくしたちは向かい合った。

「あなたは社交の場にあまりお出にならないからすっかり疎遠になってしまいましたものね。最近はよくいらっしゃるそうなのに、今度はわたくしのほうが王宮通いで足が遠のいているので、すっかりすれ違いでしたわね」
 おまえの評判は全部聞いて知っているぞ。爛々と目に力を込めて凝視するとシルヴィーはおどおどと視線を足元に落とした。ああ、この怯えたヒキガエルみたいな態度。ほんっとうにイライラするわっ。幼い頃、シルヴィーを前にいつも感じていたことを思い出す。

 ボリュー伯爵令嬢シルヴィーは、栗色の艶やかな髪に愛くるしい金色の瞳、小振りな鼻と口に卵型の小さな顔、と見た目は美少女といえる。気弱そうな表情に庇護欲をそそられる殿方は多いだろう。ヴェロニクとで「セクシーなの? キュートなの?」といったところ。ヴィルヌーブ子爵はセクシー好きでアンリはキュート好きなわけかあ、なるほど。

「お勉強の区切りが今日やっとついたの。また何かと慌しくなる前になるべくたくさんお友だちとすごしておきたいわ。ぜひシルヴィー様もご一緒に」
「え、は……」
「それはいい。イザベルの仲間に入って出かけることが多くなれば気分転換になるだろう」
「あ、わ……」
「イザベル、ボリュー伯爵令嬢を頼むぞ」
 けっ。あんたはこの子のなんですか。保護者ですか。しらーっとした気分を押し込め、内心ではにたりと、だが表立ってはにっこりとわたくしは微笑む。
「もちろんですわ。改めて、仲良くしましょうね、シルヴィー様」