いずれにせよ、ここからが本番だ。うきうきしながらその日のお妃教育を終え、いつもの回廊を歩いていると、王家の方と行き会った。
「やあ、イザベル。毎日ご苦労だね」
「王太弟殿下に拝謁します」
「やめておくれよ。かしこまって、さびしいじゃないか」
「これも勉強の成果とご覧になっていただければと」
「ああ、マドモアゼル・ド・ニーム。立派な妃殿下におなりだろうよ、あなたは」
膝を屈めるわたくしの手をうやうやしく取って立たせてくださったのは、王様の年の離れた弟君のシャルル殿下。甥である第一王子アンリの微妙な立場と、老齢の国王陛下が現役で玉座で頑張っている理由は、この方が王位第一継承者の称号を持っているからに他ならない。
この方もまた生まれたときから微妙な立場ではあったのだ。国王である兄とは生母が異なり、兄弟はそれぞれ敵対する派閥の一族を後ろ盾としていた。
王家はかたくなに男系を貫いているのだが、王様には男子がなかなか生まれず、年若い愛妾のひとりがアンリを身籠ったのは、シャルル殿下を推す勢力の訴えに負けて王太弟の地位を与えてしまった後だった。
ようやく王子を得たというのに、このままでは王統はシャルル殿下の血筋へと移る。王様自身それを良しとされていないことは明らかで、一方のシャルル殿下もまた玉座への執着がまるでない方だったりしたのである。
やはりなんといってもここは物語の世界。王族の方々は当然のように美形でいらっしゃる。兄の国王陛下が威風堂々の美丈夫であるのに対して、シャルル殿下は物腰柔らかな貴公子だ。
端正な面立ちや髪の色がアンリと似ていて(正確にはアンリがシャルルに似ている、だが)、もしアンリがシャルル殿下のように大人の余裕と寛容さと、どんなときにも動じない冷静さと肝の太さと、思慮深さと穏やかな立ち居振る舞いと抜け目のない身の処し方を習得したなら、こんな紳士になるのだろうなと思う。
この方はこれまで慎重に慎重に人生を歩んでこられた。この年まで独身を通され、長年連れ添っている愛人をお持ちではあるが子どもはいない。王統を奪うつもりはないと全力で示している。
だからといって、第一王位継承権を返せ、はい返します、とはいかないところが今の微妙な状態をつくってしまった。王弟派の家臣たちもいい加減自分たちの神輿を担ぐのは諦めてシャルル殿下を自由にしてさしあげればよいのだ。おそらく半ばはそういう趨勢へと変わってきているのだが。
どうなるんだろうねーこれ、どうするのか誰かはっきり言ってくれよ、なんてどっちつかずな状況を打開したのが、第一王子アンリのお妃選びであったのだ。
「やあ、イザベル。毎日ご苦労だね」
「王太弟殿下に拝謁します」
「やめておくれよ。かしこまって、さびしいじゃないか」
「これも勉強の成果とご覧になっていただければと」
「ああ、マドモアゼル・ド・ニーム。立派な妃殿下におなりだろうよ、あなたは」
膝を屈めるわたくしの手をうやうやしく取って立たせてくださったのは、王様の年の離れた弟君のシャルル殿下。甥である第一王子アンリの微妙な立場と、老齢の国王陛下が現役で玉座で頑張っている理由は、この方が王位第一継承者の称号を持っているからに他ならない。
この方もまた生まれたときから微妙な立場ではあったのだ。国王である兄とは生母が異なり、兄弟はそれぞれ敵対する派閥の一族を後ろ盾としていた。
王家はかたくなに男系を貫いているのだが、王様には男子がなかなか生まれず、年若い愛妾のひとりがアンリを身籠ったのは、シャルル殿下を推す勢力の訴えに負けて王太弟の地位を与えてしまった後だった。
ようやく王子を得たというのに、このままでは王統はシャルル殿下の血筋へと移る。王様自身それを良しとされていないことは明らかで、一方のシャルル殿下もまた玉座への執着がまるでない方だったりしたのである。
やはりなんといってもここは物語の世界。王族の方々は当然のように美形でいらっしゃる。兄の国王陛下が威風堂々の美丈夫であるのに対して、シャルル殿下は物腰柔らかな貴公子だ。
端正な面立ちや髪の色がアンリと似ていて(正確にはアンリがシャルルに似ている、だが)、もしアンリがシャルル殿下のように大人の余裕と寛容さと、どんなときにも動じない冷静さと肝の太さと、思慮深さと穏やかな立ち居振る舞いと抜け目のない身の処し方を習得したなら、こんな紳士になるのだろうなと思う。
この方はこれまで慎重に慎重に人生を歩んでこられた。この年まで独身を通され、長年連れ添っている愛人をお持ちではあるが子どもはいない。王統を奪うつもりはないと全力で示している。
だからといって、第一王位継承権を返せ、はい返します、とはいかないところが今の微妙な状態をつくってしまった。王弟派の家臣たちもいい加減自分たちの神輿を担ぐのは諦めてシャルル殿下を自由にしてさしあげればよいのだ。おそらく半ばはそういう趨勢へと変わってきているのだが。
どうなるんだろうねーこれ、どうするのか誰かはっきり言ってくれよ、なんてどっちつかずな状況を打開したのが、第一王子アンリのお妃選びであったのだ。