夜明けと共に起きだして、生のリンゴの食事を終えると、テオと三人の子どもたちは出かけていきました。
女神さまはエレナを手伝って朝の片づけをし、その後も言われるままに篭を持ってエレナについて家を出ました。
裏道を回って城壁の外に出るようです。農場の作業に行くのだと教えられて女神さまは目を丸くします。
「おまえは平民だろう?」
エレナは目を伏せてつぶやきます。
「そうだけど、わたしにできるのはそれくらいだもの」
――自分の食い扶持は自分で稼いでもらう。
女神さまはテオの言葉を思い出したに違いありません。それにしたって女性を外に出して労働をさせるなど、と思われたに違いありません。
農園に着くと、エレナくらいの年端もいかない娘が他に数人労働作業をしていました。さらに年少の男の子たちもいます。
女神さまは驚いて、しばし黙ってしまわれたのでした。
労働作業は奴隷がやるもので平民がそれをするのは恥とされます。女神さまは嫌がられるかと思いました。
しかし女神さまは監督係の農園の者に指図されるまま、エレナの真似をして作業に励まれました。
昼前には、干しイチジクと少しのパンがまかないとして配られました。一緒に作業していた娘や少年たちは、嬉しそうに大事にパンを食べています。
「ここの農園主様は優しい方だから、こうやってみんな喜んで集まるんだよ」
エレナが囁きます。女神さまは自分も少しずつパンを噛みながら農園のようすを眺めておられました。
昼すぎにその日の作業が終わると、日当を受け取り街に戻りました。エレナは裏道をたどり今度は広場に向かいます。
そこで二人分の給金としてもらった銀貨一枚を使い、少しの大麦を買って家に戻りました。
家には先に三人の子どもが帰ってきていて、部屋の中で仲良く昼寝をしていました。エレナが言うには、彼らは近くの裕福な家にそれぞれ家事労働に通っているのだそうです。
「疲れたでしょう。ファニもお昼寝していいよ」
女神さまは首を横に振り、エレナがリンゴを刻んで干すのを手伝われました。
夕食時に帰ってきたテオに、
「ファニはとても頑張ってくれたよ。二人分のお給金でこれを買えたの」
とお粥を差し出しながらエレナが報告すると、
「そうか」
意外にもテオは優しく笑って女神さまをねぎらいました。