「しかし、俺が信じて実現しなかったことはないからな。それで十分だ。神託の通りに何か悪いことが起きたとして、俺が信じなかったからだと責められる謂われはない。俺が信じなかったとしても他に信じる奴はいたはずだろう? だったら悪いことを回避できなかったのはそれを信じた奴のせいだ。信じたくせに何もしなかった奴のせいだ。そうじゃないか?」
「屁理屈言いおってからに」
 あきれながらも、女神さまはおもしろそうに笑っておられました。




 城壁の外でいったん別れた後、夕飯時になってテオの家に再び現れたリュキーノスは、兵士の携行食である玉ねぎを山のように抱えてきました。
「イヤミか」
 鼻を鳴らしてテオは盛大に顔をしかめます。食卓の脇で小難しい顔で向かい合うテオとリュキーノスのことを、エレナも子どもたちも心配そうに見上げます。

「志願してないってどういうことだ?」
「するもしないもおれの自由だろう」
「れっきとした男が何を言ってる。自慢の武具がさびつくぞ」
「親父がいなくなったから仕方なく持ってるんだ。別に自慢じゃない」
「あのな、テオ」
 唇を湿らせてリュキーノスは今度は懐柔するような表情になりました。

「おまえが来てくれないとおれが困る。話がわかる奴がいてくれないと」
「困ることはないだろう。あんたは開拓の英雄だ。どんな無能を引き連れてでも事を成功させるだろう」
「テオ!」
 リュキーノスがテオに向けた厳しい声音に、エレナがびくりと肩を跳ね上げます。それを横目でとらえて、リュキーノスはばつの悪そうな顔をしました。

「少し出れるか? 軍事長官とこの宴会に呼ばれててな。どのみちおまえも誘おうと思ってたんだ」
「ああ。エレナ、軒先に吊るしといてくれ」
「うん……。いってらっしゃい」
 連れだって出ていくふたりをエレナは不安そうに見送ります。そそくさと食事を終えた子どもたちは、食卓の片づけをして早々に部屋の中へと入っていきました。
 エレナは紐で繋がった玉ねぎを手に持ったまま、ぼんやりしています。

「エレナ」
 ニンンクと豆のスープを飲み干してさじパンをたいらげた女神さまが、そっと呼びかけます。
「これ、全部スープにしちゃおうか?」
「スープにしても玉ねぎはにおうからな。どっちにしても『玉ねぎのにおいはもうたくさん』じゃ」
 女神さまのお答えにくすりと笑って、エレナは台所の奥へと姿を消しました。