眉をひそめたアルテミシアと女神さまが顔を見合わせます。ふたりの話を、豆袋を抱きしめて黙ったまま、エレナは怯えたように聞いていました。




 城壁の外の岩場ですごしているミマスの元には、いつの間にか傭兵仲間の集団ができていました。
「そんなに実入りの良い戦ではないだろうに」
 テオのようなことを言う女神さまにミマスは笑いました。
「そうでもないさ。あのでかい船に乗り込むことができるんだ。みな楽しみにしてるさ。俺たち傭兵を信用して入れるかどうかはわからんが」
「船で移動となれば護衛の弓兵も必要かのう」
「そういうことだ」
 ミマスはにやりと口角を上げます。この男は、いつでもどんなときでも自分の腕に自信があるのでしょう。

 ハリの弓の腕はといえば、離れた的に中てるくらいのことは確実になったようです。空を飛ぶ鳥となるとまだまだ確率の問題のようですが。
「おぬしが弓を教えたことで、ハリも弓矢を持って戦場に行くようになるのかのう」
「さてな。オレたち平原の者とあんたらとは違いすぎる」
「神が違えば、人も違うのかのう」
 聞き取れないほど小さな声で女神さまがこぼします。その声にかぶさって馬蹄の音が近づいてきました。

「ハリ! それにファニだろう?」
 馬を駆けてやって来たのはリュキーノスでした。馬上の人に向かってハリが嬉しそうに声をあげます。
「おじさん!」
「久しぶりだなあ。ずいぶん背が伸びたな。それに健康的になった。最後に会ったときにはまだガリガリだったもんなあ」
「? 大祭の前にヤマウズラを持って来てくれたよね?」
「は……?」
 ぽかんと口を開けるリュキーノスに向かって女神さまが横から大声を上げます。

「何しに来た! 馬なんぞに乗って。おまえも出征するのか!」
「あたりまえだろう。新しい軍船を試すとなったら、腰が引けてる御老体に任せられるか。うちから援軍を出すしな」
 女神さまはお顔を少し険しくなさいました。どんどん出兵の規模が大きくなっているような気がします。女神さまもそう思われたのでしょう。

「軍の奴らと話が終わったらテオの家にも行くからな、伝えといてくれ。ところで」
 リュキーノスが馬上からミマスを見下ろします。
「おまえは傭兵か? 良い長弓だな。騎兵に付きたいなら俺の従者にならないか? 俺は植民市のリュキーノスだ」
「…………」
 ミマスはたっぷり時間をかけて、リュキーノスを観察しました。

「あんたは植民団の英雄なんて呼ばれてる男だろう?」
「らしいな」
「オレは既に英雄なんて言われてる奴には興味ない」
「ほう?」