戦に出ることが街の男性たちのいちばんの義務。貧しい暮らしの中でも市民の誇りとして男たちはそれを胸に刻んでいるのです。劇団の男性らのように反戦を叫べる奇特な者は少数なのです。

「男はなんでも戦争で片を付けようとする。どうしてかしら」
 アルテミシアは優雅に膝を組んで嘆息しました。
「国の代表がみんな女性ならいいのに。女同士なら戦争なんて口喧嘩ですむもの。そう思わない?」
「それ、ピリンナ先生も言ってました」
 エレナが苦笑いします。それから、庭先で豆の袋を抱えて立っておられる女神さまに気づきました。

「ああ、ファニ。買ってきてくれたんだね、ありがとう」
「うむ」
「おちびさん、ちょうど良かったわ」
 アルテミシアが傍らから柔らかそうなウールの衣を広げました。
「わたくしの子どもの頃のものよ。あなたの背丈にちょうどよいのではなくて?」
 歩み寄ってきて女神さまの肩に着せ掛けます。
「おちびさんたら、上衣も着ないでいつまでも寒そうな格好なんだもの。これを使いなさい」
「あ、ああ」
 思わぬ親切に女神さまは目をぱちぱちさせます。
「ありがとう」
「いやだ、気持ち悪い」
「なにおう? わらわだって良くされれば礼くらい言うぞ」
「そうね。人として当然だわ」
 どことなく自省をにじませてアルテミシアは微笑みます。

「戦をするのも、人として当然か?」
 女神さまの問いにアルテミシアは驚いて息を止めました。少し考えてから、口を開きます。
「……いいえ。わたくしはそうは思わないわ。親しい人が戦で亡くなれば悲しいのが人として当然だもの」
「じゃが、戦でなくとも人は死ぬ。病や飢えでだってたくさん死ぬ」
「そうね。……だからこそ、戦で人が死ぬことはないのじゃないかしら。だって、病はいつ罹るともわからないし、飢えは……難しい問題だわ、わたくしには難しい。でも、戦争はするかしないかを決められるはずでしょう。そう思うわ」
 考え考え、ですが聡明にアルテミシアは答えました。
「そうか。なるほど」
 女神さまは何度も頷きます。

「おちびさんたら、なんなの急に」
「いや、おぬしの言う通りだと思ってな。女同士なら口喧嘩ですむのに」
「そうよね。なのにどうしてわたくしたち女は政治に参加できないのかしら? 口惜しいわ」
「決まってる」
 女神さまは可愛らしいお顔に凄絶な色を浮かべて微笑まれました。
「男たちは女が怖いのじゃ。だから自分の監視下で家内に閉じ込めておこうとする」
「まっぴらだわ。そんなの」
「本当にのう」