「それを人間が受けて意味を持たせてしまっている、ということですか?」
「姉上が言っていたのもそんなようなことだろう」
「はい」

「火をおこせ、が戦を起こせか。短絡的だね。でも、あの霧の息があってもなくても戦は起きるだろうよ」
「ですが、神のお告げと聞けば人心が流れやすいのも事実ですよね」
「そうだね」
「煌めく瞳の御方の国の者たちは、抗戦すべしと託宣を受け止めたのでしょうね」
「……そうだね。へたをしたら叔母上の国の兵の方が布陣が早いかもしれない」
「テオはそれを確認したわけですね」
「たぶんね」
 街に戻れば、開戦の準備が始まります。兵の招集が。




 翌朝、正面の参道のゆったりした坂を下る女神さまの御髪(おぐし)を揺らす風は、めっきり秋めいておりました。早朝から託宣を求めて参拝者たちが坂道を上ってきます。たくさんの奉納品を載せた馬車ともすれ違います。

 個人が神さまに窺いたい事柄は、大小さまざまあるそうです。娘の結婚式の吉日や、宴会を催す吉日、夫婦が枕を交わす吉日まで。そんなことさえ神さまに訊きたがるのです。そんなことさえ自分では決められないのでしょうか。失敗したとき責められるのが嫌なのでしょうか。人間は未熟ということなのでしょうか。

 わたしは坂道を歩く女神さまの肩にそうっと下りました。くっついていたい気持ちになってしまったのです。女神さまはこそっとわたしに頬を寄せてくださいました。

 ……でも、そうですね。そうやって、神さまに後押ししてもらうことで安心し、どっしり構えて事に当たれるというのなら、それが信じるということなのかもしれません。問題なのは、それが戦のように良くない場合があるということで。
 戦は良くないことですよね、女神さま? わたしが女神さまを見上げたのと同時に、テオもこちらを振り返って言いました。

「ファニ、おまえはなんなんだ? やたらと神々のことに詳しかったり、急に大人びたことを言ったり」
「改まって聞かれてもな」
「……そうだな。おまえがちんちくりんなことは変わらないな」
「む。わらわをタダのちんちくりんと思うなよ」
「そうか。おまえは、タダのちんちくりんではないのだな」
「そうじゃ。わらわはタダのちんちくりんでは……」

 こらえきれないようにミマスが大きな声で笑いだします。続いてテオも。
「むむ。どうして笑うんじゃあああ!?」
 戦の足音は、すぐそこまで来ていました。