「なんじゃその顔は。わらわがおまえを疑うわけないだろう」
「は、はい……」
「しかし、どうしてわらわがこのときに地上に落とされたのか。気になるのじゃ」
「お仕置きで、という前提は変わらないとは思いますが……」
「なにおう?」

 そう遠くない道中です。やがて船はとある小さな入り江に立ち寄ってくれました。女神さまたち三人と奉納品はここで降ろされます。

 貨物船が沖へと戻っていくのを見送ってから、ミマスが尋ねました。
「こっちは裏道だろ? ちょっと向こうへ回れば馬車も通れる参道があるのに、何故こっちに?」
 テオは無言のまま自ら奉納品の入った荷物を背負います。
「お忍びってわけか?」
 ミマスがさらに突っ込みましたが、テオはやっぱり何も答えません。岩場の間の坂道を先に立って歩き始めます。ミマスは肩をすくめて女神さまに先に行くよう促しました。
 
 ミマスが最後尾に付いて一行は、崖の斜面につづら折りにできた小道を辿ってゆきます。小さな台地の森に入ったところで、ミマスが声をあげました。
「いるな」
「山賊か?」
「ああ。やるか?」
 腰に下げていた小ぶりの弓に手をかけてミマスはにやりとします。テオも荷物を持ち直し腰の短剣の柄に手を添えながら頷きます。

「木々が途絶えたらまた崖になる。ここで追い払っておかないと的になるな」
「森の中でだってオレはやれるぜ」
「その必要はなさそうだがなあ」
 緊迫感のない声を差し込んだ女神さまをテオがとっさのように振り返って睨みます。

 そのとき、木々の梢の上から黄金の光の矢が降り注いできたのをわたしは見ました。一瞬で、森の中に満ちていた不穏な気配が掻き消されます。
「……なんだ?」
 ミマスが戸惑ってあたりを見渡します。木々の根元のところどころ、武器を持った男たちが倒れています。

「ここはもう、神域じゃからなあ。神さまが助けてくれたのではないか?」
 女神さまがとびきりの笑顔でそうおっしゃいます。
「そんなわけないだろう」
 テオは吐き捨て、少し考えます。
「こいつら全員、悪いものでも食って急に腹が痛くなったんじゃないのか?」
「そりゃ、毒草でも口にした可能性はあるだろうが……」

 さすがに無理があるだろうという表情をミマスから向けられ、テオは頬を赤らめます。
「なんだろうと、神の助けなんてことの方があり得ない」
 先にずんずん森を抜けて行ってしまいます。ミマスが急かすので女神さまは小走りになってテオの後を追います。