「そう。神託の解釈をさんざん議論した結論があれだよ」
「あんたたちの神様は本当にそうおっしゃったのかい?」
 更に皮肉気にミマスが問います。テオもまた、口元をひきつらせて嘲笑しました。
「神託の山に本当に神がいるとしたら、今頃びっくりしてるだろうよ。自分はそんなことは言っていないってな」

 ふたりの会話を聞きながら、女神さまは巨大な軍船をただ見つめておられました。




 内海の向こう側の植民市まで商品を運ぶ貨物船に同乗させてもらう形で、女神さまたちは街の外港を出発しました。テオは船長と何か話をしているし、ミマスは相変わらず奉納品の入った荷物のかたわらに張り付いています。

 先ほど見た巨大な軍船に比べれば驚くほど小さな帆を持った船は、陸に近い島々の間を縫うようにゆっくり進んでいきます。船尾寄りの甲板にじかにお座りになっている女神さまに、わたしはそうっと話しかけました。
「外套を用意してきませんでしたが、お寒くはないですか」
「大丈夫じゃ」

 女神さまも小さな声になっておっしゃいました。
「それにしても驚いたのう、ティア」
 様変わりした港町のことでございましょう。
「はい」
「人というものは本当に何をやり出すかわからない」
 はあっと感嘆とも悲嘆ともつかないため息をもらして、女神さまはまなざしを遠くに投げられます。

「にしても、狭い城壁内のことばかりに気を取られて外の変化に気がつかなかったとはのう」
 それはわたしも感じました。いつものように天上から見守っていらしたなら、外からの禍(わざわい)の足音をとっくに感じていたでしょうに。
「じゃからといって何をするでもないのだが、わらわは何故このように蚊帳の外に置かれておるのだろう」
 何を思ってそんなことをおっしゃるのかわからず、わたしは遠くを見やっている女神さまのお顔を見上げます。

「託宣のことといい、気になることばかりじゃ。ティア、父さまの思惑はなんじゃ?」
 すっと女神さまが声を低くしてわたしをご覧になります。へんな声が出そうになって、わたしは喉を詰まらせます。
「実のところ、なんぞ企んでおるのではないのか? あの腐れジジイは」
「そ、そんな……大神の御心をわたしなどが知る由もございません」
「…………」
 女神さまはわたしを疑っておられるのでしょうか。信じてくださらないのでしょうか。わたしは泣きたい気持ちになってしまいます。