「あのね、テオ。それで冬の間の食糧のことなんだけど」
「そうだ、豆と大麦はどれくらい買い溜めが必要だ?」
「ええとね……」

 話しながらテオとエレナは台所の奥の貯蔵室に向かいます。この頃のエレナはてきぱきとして実に頼もしいです。自分の仕事で得た知識でアルテミシアを助けることができ、そのことが大いに自信になったようでした。
 そんなエレナとテオの後ろを女神さまが忍び足でついていきます。むう、これは嫌な予感。

 その予感は大当たりでした。うす暗い貯蔵室に入って壺の中を覗きこんでいるテオとエレナの後姿を確認すると、女神さまはぱたんと扉を閉めてつっかえ棒をかけてしまったのです。なんてことをするんですか。わたしだって中にいるのに!

「ファニ!?」
「おまえはまた! なんのつもりだっ?」
「しばらくの間ふたり仲良く話しておれ。そうすればすぐに出してやる」
「もうっ。ファニったら!」
「あいつはまったく……」
 疲れ切ったようすで頭を抱えてテオは土間に座り込んでしまいました。そんな彼をエレナは気がかりなようすで見つめます。

 はいはい。わたしも一緒に閉じ込められたということは、ふたりのやりとりを具(つぶさ)に観察しておけってことですよね。わたしは申し訳ない気持ちになりながらも壺の蓋の上にそうっとおりて耳をそばだてたのでした。

「テオ、疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「疲れもするさ。最近はあいつを見てるだけで頭が痛くなる」
「ファニったら、いたずらばかりするんだから」
「今夜は絶対にメシを食わせるな」
「テオもそんな意地悪言って」
「意地が悪いのはあのガキだ。まったく何考えて……」
 額をおさえて声をくぐもらせたテオをエレナが見下ろします。
「このところいつも顔色が悪いよ。なにか心配事?」
「いや……」

「今年は戦になるのでしょう?」
 自分の膝に頬杖をついて曖昧に濁すテオに、エレナは思い切ったように問いかけました。
「去年は回避できたけど今年はそうはいかないって。むしろ今、街は銀山で潤ってるからこっちからお隣を叩き潰しにかかるだろうって、ピリンナ先生が話してた」
「ふうん、さすがピリンナ。その通りだな」
 覇気のないようすでテオは唇を曲げます。

「……テオは出兵しないよね?」
 言って良いものか迷うように間を置いてから、エレナはか細い声で尋ねました。
「テオには銀山のお仕事があるもの。テオがいなくなったらみんなが困るもの。出兵には志願しないよね?」
 テオは返事をしません。