「おい、おまえ。わらわを好きであろう」
「テオのところのファニがまたおかしなこと言い出したぞ」

「そこのおまえ。わらわを好きと言え」
「出るとこ出てからまたおいで」

「ああ、もう! おまえでいい! そこのおジジ。わらわをどう思う」
「今日も可愛いね。どれ、お菓子をあげよう」

 もらったお菓子をかじりながら女神さまはむうっと口を尖らせます。
「この街の男たちはどうなっておるのじゃ」
 だから学習しましょうよ! 好かれる努力ですよ、好かれる努力! ぷるぷる青筋を立てるわたしに呼応するように、ちょうど通りかかったテオが目を吊り上げて女神さまの襟首をつかみ上げました。

「何をやってるんだ!? おまえは」
「仕方あるまい。そなたをお手付きにできないなら他の男を見つくろわねば」
「はあ?」
「わらわも考えたのじゃ。あまりにエレナが健気なゆえ、正妻の座を譲ってもいいと」
「はあああ?」
「アルテミシアが嫁ぐのは頭の禿げ上がったおジジだそうじゃないか。それならアルテミシアだっていつ寡婦になるかわからない。おまえの出番がくるかもしれん。席は多く空けておいてやろうというわらわなりの気遣いじゃ」
「おまえはどうしてそう、人の都合を考えずにものが言えるんだ!?」
「なにおう。おまえらの都合など知ったことかっ。わらわは愛が欲しいのじゃ!」

 ぎゃいぎゃい言い合いながら家へと戻るテオと女神さまを路地裏の人々がおもしろそうに見やっています。ふたりはまるで気がついていないようでしたが。




 大祭が終わると街は冬支度に入ります。エレナは聖衣を織るのに使えなかった羊毛の糸で子どもたちのために丈の短い外套を織りあげました。色とりどりの糸を適当に組み合わせた外套は他にはない一品で、三人の子どもたちを喜ばせました。

「ポロの分も織りましょうか?」
「そうだ、休みの日にはまたポロを連れてきてよ」
 ポロと仲良しになったハリがテオにねだります。活発なハリは身体能力の高いポロを気に入って、大祭の休日の間は城外の岩場へと足をのばして遊んでいたようでした。
 ミハイルは大人しすぎるし、デニスは闊達ではありますが観劇を好んでハリに付き合ってはくれません。良い相棒ができたとハリは喜んでいたのです。

「でもね、ハリ。銀山に農閑期はないもの。むしろこれからの季節が大変よね、テオ」
「そうだな」
 頷くテオの顔色は冴えません。何か気がかりなことがあるようです。