「単に哀れに思うただけじゃ。あまりにも健気でなあ」
「それはエレナのことですか? それともアルテミシアですか?」
 女神さまは否定も肯定もなさらず静かに微笑まれました。
「我が父上や愚弟を引き合いに出すまでもなく、男というのは馬鹿でかなわん」

「また怒られますよ。そんなことおっしゃると」
「これ以上、罰の受けようはないだろうが」
 うわ、開き直っちゃってますよ。
「そんなんじゃいつまでたっても天上に戻れませんよ」
 今まで言いたくても我慢してきたことを、この際だからわたしも申し上げてしまいます。

「天上に戻れたあかつきには、エレナとアルテミシアを召し上げてもよいかもな」
「は?」
「テオには惜しいふたりじゃ。わらわがいただいていこう。近侍にするのじゃ」
 ちょっとちょっとー。わたしという者がおりながら。
「冗談じゃよ」
 くっくと笑って女神さまは天空を見上げます。なんだかようすがおかしいです。
「女神さま……?」

「そうだな。そろそろ真面目にわらわを好きになる男を見つけねばな」
「テオではなくて、ですか?」
「やつにこだわる理由はない。要は誰でもよいのじゃ」
「今までの苦労が水の泡ですね」
「言うな」
 ぴんっとおでこを弾かれて、わたしは自分の失言を反省したのでした。





 聖衣の補修は無事に終わり、数日泊まり込んでいたアルテミシアは神殿に戻っていきました。お礼を届けさせると言う彼女に、子どもたちはお菓子をねだっていました。

 間もなく山盛りの麦菓子やチーズパイ、串焼きのお肉が届けられて、子どもたちも女神さまもこれ以上のないはしゃぎっぷりでした。
 その光景を疲れたように眺めながらテオは普段は飲まないワインなど飲んでいたし、エレナも通常よりさらに薄めたワインに蜂蜜を入れて少しだけたしなんでいました。やっとのんびりできる、そんなふうに。

 そして、大祭の最終日。供物品奉納の行列を皆で見に行きました。振りまかれる花びらの中を〈聖衣の乙女〉が練り歩いていきます。選りすぐりの少女たちが着飾った姿に道々で歓声があがります。

 誇らしく掲げられた聖衣の前方に立つアルテミシアの姿は特に美しく、花冠で飾られた金に近い茶色の髪が日差しに透けて輝くさまは、不遜ではないかと思えるほどでした。さいわい女神さまはおもしろそうに見物していらっしゃいましたが。