エレナとアルテミシアが織機の両脇に立ち、経糸の間に杼を通し始めます。始めはかみ合わなかったふたりの調子が、段々と息の合ったものになっていきます。

 端から端へ、手から手へ、杼が受け渡され、白い腕が筬(おさ)を持ち上げ織目を整えていきます。その間にもうひとりの腕が下方の丸棒を動かし経糸(たていと)を互い違いにしていきます。そのすべてが無駄のない動きになっていくと、まるで踊りを踊っているような洗練された所作になっていきました。

 女神さまは透き通ったまなざしで、二人の少女のたおやかな腕の動きを見つめておられました。




 祭りの期間は仕事が休みの子どもたちが家事を担当し、テオが広場の屋台から食事を調達する日々が続きました。合間合間に休憩をはさみながらエレナとアルテミシアは聖衣を織り続けます。

 元のアザミ色の布地は最高級の糸を使用した光沢のあるリネンです。格段に糸の質が落ちることを懸念していたアルテミシアでしたが、色とりどりの縞模様が織りあがってくると仕上がりに満足なようすを見せ始めました。

「悪くないわ」
「うむ。なかなか斬新じゃ」
 女神さまも太鼓判を押して頷かれますが、アルテミシアにとってどれだけ説得力があるかは不明です。

 少し余裕が出てきたので、休憩時には木陰でミント水を飲みながらエレナとアルテミシアが話す光景をよく見るようになりました。空いた杼に次の糸を巻きながら女神さまが聞き耳を立てていらっしゃるのを知ってか知らずか、ふたりはどんどん打ち解けていったのです。

「あなたもおかしな人ね」
「何がですか?」
「わたくしなんて、鼻持ちならないことばかり言っていたのに、助けてくれるなんて」
「……あのときのアルテミシア様を見て助けたいと思わない人はいないですよ。テオもきっとそうしたと思います。だからわたしもそうできたんです。わたしもそうやってテオに助けられたから」

「……。あなたはどうやってこの家に来たの? 身分は市民なのでしょう?」
「はい。市民といってもわたしの家は貧しくて、街では暮らせなくて。村に移住しようってあてもなく城外に出たのです。でも父はもともと農夫ではなかったし何をやっても上手くいかなかったらしくて。あげくに落石に巻き込まれて死んでしまったんです」
「そう、なの……」