いちばん明るい星が太陽と共に天空にある時期、一日は長くなり昼下がりの昼寝が必須になります。子どもたちが木陰で健やかな寝息をたてている横で、女神さまは農園でもらった野菜を井戸の水で洗っていらっしゃいました。
 働いた分お金や食べ物をもらえたり、働いた後の食事は食べ甲斐があるなどといったことに気づかれたようで、この頃の女神さまは食という欲望のために励んでおられるようでした。

「野菜が美味な季節じゃなあ、ティア」
「そうですねえ」
 濡れた手を布で拭いていた女神さまは、ふと御自分の手のひらをじっとご覧になります。農作業や水仕事で少し荒れてしまった手。ですが女神さまが気になさっているのはそのことではないでしょう。

「大丈夫ですか?」
「ああ。もうすっかり治った」
 今は小さな手のひらに、やけどのようなみみずばれのような傷ができたのは、あの晩、テオをかき抱いたときのことです。熾火(おきび)がはぜたような音、あれは護りの力のようだと女神さまはおっしゃっていました。

『わらわを悪しきものとはねつけるとは』
 不快な顔でそうつぶやかれた女神さまは、テオが身に着けた護りがなんであるかも心当たりがおありのようでした。
「テオめ。面倒な奴じゃのう」
 今またつぶやかれて女神さまは嘆息なさっています。

「ファニ、遅くなってごめんね」
 お話していたらエレナが帰ってきたので、わたしはすうっと木陰の方へよけます。
「お裾分けにナツメヤシをもらったよ」
 女絵師ピリンナに弟子入りしてからというもの、エレナは実に生き生きとしています。以前はときおり自信のない気弱なようすを見せるのが歯がゆかっただけに、エレナが明るくなって良かったとわたしにも思えます。

 農園の手伝いよりも日給は良く、またデニスが劇団の手伝いに行くとあの禿ちょろびんの男性が日当をはずんでくれ、この家の食糧事情はだいぶ良くなっていました。

 昼寝している子どもたちを見下ろすと、眠っていると思っていたミハイルがじっとわたしを見ていました。そうっとそばに飛んで行けば、ミハイルはにこりと笑ってまた目を閉じます。

 井戸の方ではエレナが弾んだ声をあげています。
「あちこちがだんだんにぎやかになってきたよね」
 それはそうでしょう。もうじき街では大祭が行われるのです。毎月の祭日など比べものにならない大きな祭礼。収穫の終わりを祝い、人々は仕事を休み、奴隷たちにも主人と同じ食事が供されます。数々の競技会が催され、演劇も無料で楽しむことができます。そりゃあ街全体が浮足立つというものです。