答えになっているようななっていないような返事をして、テオも立ち上がります。家に向かって歩き出しながら、後ろを歩く女神さまを振り返りテオは尋ねました。
「おれを捜しに来たのか?」
「健気じゃろう? 惚れたか?」
「馬鹿。ちんちくりんの棒っきれが」
「なんだとう」

 条件反射で飛び出た言葉は、いつもほど力がありませんでした。先に立って歩く背中を見上げるまなざしは、ほんの少しだけ傷つかれたようでもありました。




 翌朝、緊張の面持ちで食卓に集まった子どもたちの前で、テオがエレナに告げました。
「おまえが捜してた絵師はピリンナだろう。革屋の隣の二階建ての工房にいる」
「え……」
「昨日のうちに頼んでおいた。農園の仕事はファニに任せて、今日からピリンナの手伝いに行け」

 なんとテオは、昨晩飛び出したその足で、陶磁器工房の女職人に交渉に行ったようでした。これには子どもたちも驚いて目を輝かせました。
「よかったね、エレナ」
「さすがテオ」
「昨日はあんなこと言ってごめん」
 口々に言う子どもたちの素直さに救われたのか、テオも口の中で「おれも悪かった」などとつぶやいています。

「よかったのう、エレナ」
 すっかりいつもの調子を取り戻された女神さまも、にやにやと人の悪い笑みをテオに向けつつエレナの背中を押します。
「テオ……ありがとう」
「ああ。言いすぎて悪かった」
 感極まったようすで目を潤ませるエレナの顔から微妙に視線を反らしながらも、テオはそこはしっかりと言いました。
「ううん。ありがとう、ありがとう。テオ」

 一連の場面を木の上から眺め下ろし弟君は退屈そうにおっしゃいます。
「つまんない」
「なんてことおっしゃるのですか」
「だあってさあ」
 まるで敵を見るような眼で弟君はテオをご覧になります。
「まさか姉上の腕から抜け出す男がいるとはね」
「仕方ないですよ。今はあのお姿ですから」
 やはり女神さまご自身が気づかれて心を入れ替えなければならないのです。

「ぼくは嫌だけどなあ、姉上が変わってしまうのは」
 この方もなかなか面倒な御方にございます。いつまで女神さまにくっついておられるおつもりでしょう。
「言いたいことはわかっているよ、ティア」
「い、いえいえ」
「ぼくだっていつまでも暇じゃあないからね。でも、また来るよ」

 最後に竪琴のつま弾きを残し、弟君のお姿は消えておりました。なごやかな朝の食卓の間から、女神さまがこちらに目を向け、肩をすくめておられました。