「陶工区? なんであんなところに」
「テオ……」
エレナは意を決したように顔を上げました。
「わたし、陶器をつくるお仕事がしたいの」
初耳だったのでしょう。テオは虚をつかれたように怒りの表情を引っ込めます。
「なんだって?」
「壺絵を描く職人になりたいの。前にどこかの工房で働いてる女の人を見かけて、すごいなって思ったの。わたしも、あんなふうに働けたら」
「ダメに決まってるだろっ」
思わぬ強さでテオはエレナの希望をはねのけました。
「働く? 簡単に言うな。字も読めない女が何ができるって言う……」
「ひどいよ!」
テオの言葉を遮ったのは、ハリの怒声でした。中庭から、真っ赤に燃えあがるような眼でテオを見据えています。
「デニスは許したのに、どうしてエレナはダメなんだよ!?」
叫ぶハリの隣で、当のデニスも涙をこらえるような眼でテオを見つめています。そのさらにかたわらから、ミハイルもじっとテオを見ていました。
三人の責める視線はもとより、自分でも言いすぎたと思ったのでしょう。テオは片手で額をおさえます。そんな彼の前でエレナはぎゅっと自分の衣のひだを握りしめ、泣くのを我慢してくちびるを震わせながら、それでも言葉を押し出しました。
「わたしだって、教えてもらえるなら……」
それだけ言うのがようやくで、うつむいたその頬に大粒の涙がこぼれだします。ハリの非難の眼がますます険しくなりました。
テオはどちらかといえばエレナの涙に動揺したようで、何か言いたそうに彼女を見下ろしましたが、結局、
「好きにしろっ」
言い捨てると逃げるように足を踏み出し、薄暗くなった路地へと姿を消してしまったのでした。
藍色の天空に星々が輝きを競う頃になってもテオは戻ってきませんでした。寝床で丸くなって眠るエレナの頬には涙の跡が残っています。
起きだして庭に出た女神さまは、独り言のように囁かれました。
「泣きながら眠ってしまえる者は幸福だとぬかした奴がいたな」
「誰のことだい?」
中庭の木の上で竪琴をつま弾いていた弟君がお訊きになります。
「さてな、どうせ大昔のへぼ詩人じゃろう」
おもしろそうに口元をゆがめて弟君はさらに問いを重ねます。
「それで、眠れない男のことはどうするの?」
「男を眠らせるのは女の役目じゃろうて」
「テオ……」
エレナは意を決したように顔を上げました。
「わたし、陶器をつくるお仕事がしたいの」
初耳だったのでしょう。テオは虚をつかれたように怒りの表情を引っ込めます。
「なんだって?」
「壺絵を描く職人になりたいの。前にどこかの工房で働いてる女の人を見かけて、すごいなって思ったの。わたしも、あんなふうに働けたら」
「ダメに決まってるだろっ」
思わぬ強さでテオはエレナの希望をはねのけました。
「働く? 簡単に言うな。字も読めない女が何ができるって言う……」
「ひどいよ!」
テオの言葉を遮ったのは、ハリの怒声でした。中庭から、真っ赤に燃えあがるような眼でテオを見据えています。
「デニスは許したのに、どうしてエレナはダメなんだよ!?」
叫ぶハリの隣で、当のデニスも涙をこらえるような眼でテオを見つめています。そのさらにかたわらから、ミハイルもじっとテオを見ていました。
三人の責める視線はもとより、自分でも言いすぎたと思ったのでしょう。テオは片手で額をおさえます。そんな彼の前でエレナはぎゅっと自分の衣のひだを握りしめ、泣くのを我慢してくちびるを震わせながら、それでも言葉を押し出しました。
「わたしだって、教えてもらえるなら……」
それだけ言うのがようやくで、うつむいたその頬に大粒の涙がこぼれだします。ハリの非難の眼がますます険しくなりました。
テオはどちらかといえばエレナの涙に動揺したようで、何か言いたそうに彼女を見下ろしましたが、結局、
「好きにしろっ」
言い捨てると逃げるように足を踏み出し、薄暗くなった路地へと姿を消してしまったのでした。
藍色の天空に星々が輝きを競う頃になってもテオは戻ってきませんでした。寝床で丸くなって眠るエレナの頬には涙の跡が残っています。
起きだして庭に出た女神さまは、独り言のように囁かれました。
「泣きながら眠ってしまえる者は幸福だとぬかした奴がいたな」
「誰のことだい?」
中庭の木の上で竪琴をつま弾いていた弟君がお訊きになります。
「さてな、どうせ大昔のへぼ詩人じゃろう」
おもしろそうに口元をゆがめて弟君はさらに問いを重ねます。
「それで、眠れない男のことはどうするの?」
「男を眠らせるのは女の役目じゃろうて」