「こんな時間に出歩くおまえたちが悪いんだぞ」
 取りなしてくれた男性がそっけなく女神さまたちに言い捨てます。エレナは真っ赤な顔で涙目のまま、その男性に向かって深々と頭を下げたのでした。




「女職人を捜しに行ったのじゃな」
「うん……」
 くすんと鼻をすすりながらエレナは頷きます。
「言ってくれれば一緒に行ったのに」

 帰る道すがら、くちびるを尖らせて怒る女神さまにエレナはごめんね、と力なくつぶやきました。
「家事もあるし、すぐ戻るつもりだったの。でもあの女の人が見つからなくて、なかなか踏ん切りがつかなくて。留守にしてるおうちの人かもしれない。戻ってくるかなって、待ってみようかなって。気がついたらこんな時間に……」

「しようがないのう」
「ごめんなさい」
 また謝るエレナの頬に、女神さまはぺとっと手のひらをそえられました。
「謝るな。別にそなたは悪いことはしておらぬ」
「でも……」
「でもそうじゃな。はっきり言わないことはエレナが悪い。自分の望みははっきりと口に出すのじゃ」
「でも……」

「テオに話す前に弟子入りを頼もうとしたのだな?」
 女神さまのご推察にエレナは目を瞠ってから恥ずかしそうに頷きました。
「わがままを言うのなら、自分でしっかりやってからだって思ったの」
 外堀を埋めてからとも言えましょう。密かに行いたかったのに失敗したからエレナは恥じ入っているのでしょう。女神さまは嘆息なさってそれ以上は何もおっしゃいませんでした。

 黙ったままふたりはテオの家に帰ります。わたしもいつものように静かに女神さまの肩の上を飛び、弟君はいまだにものめずらしそうに路地のあちこちを眺めておられました。

 住宅区はかろうじて西日が差して、家々のかまどからの煙が暮色の空へとのぼっていました。
「急いでごはん作らないとね」
 気を取り直すようにエレナが口を開き、女神さまもそれに応じようとなされたとき、先を歩いていたエレナの足がぴたりと止まりました。
 家の前、明るい金髪に斜陽を反射させながら、テオが怖い顔をして立っていました。

「こんな時間までどこへ行ってたんだ?」
「ごめんなさい」
「……どこに居た?」
 か細い声で謝罪したきりうつむいて硬直しているエレナから女神さまへと視線を移し、テオは質問を変えます。
「陶工区じゃ」
 しれっと女神さまが答えてしまったので、エレナはますますからだを竦ませます。これで退路は断たれました。