「ふうむ」
 禿ちょろびんの男性は、横たわったままじたばたする女神さまをあごひげを撫でながら見下ろしています。助け起こしてあげてくださいよ、と思いつつ、どうしてさしあげるのが正解なのかわたしにもわからなかったりします。

「ヤドカリみたいですねえ」
 騒ぎでリハーサルどころではなくなったのでしょう。仮面を外した役者が素朴な感想を言います。
「そう、ヤドカリだ」
 わが意を得たりと頷いて禿ちょろびんの男性はおもむろに女神さまのおしりがはまった壺を持ち上げました。

「ちょっ……なにをするっ」
「ちんちくりん様、ちんちくりん様。このままじょうずに手のひらと足の裏で四つ這いで歩けませんかね?」
「な、なにおうっ」
「やって見せてください。御駄賃をあげますから」
「むむう……」

 駄賃と聞いて、女神さまはひょこひょこと手足を動かされました。ううん、進んでいるような、そうでないような。
「おもしろい」
 腕組をした男性はよちよちしている女神さまに視線を注いだきり微動だにしなくなってしまいます。ちょっとちょっと、早く助けてさしあげてくださいよー。

 見るに見かねたのか、デニスがくいっと禿ちょろびんの男性の衣を引っ張ります。本人ではなく、後ろの役者たちが気がついて女神さまを取り囲みました。
「どれ、引っ張り出してやろう。おれは壺を持つから、そっちから手足を引っ張れ」
「よし」
「わっ。これ、痛い! 痛いというに!」
「……抜けないな」
「おもしろいからこのままでいいんじゃね?」
「違いない。よければおれたちの舞台に……」
「馬鹿を申すなあああ!」

 顔を真っ赤にして涙目になる女神さまを囲んで男性たちは陽気に笑い出します。
「冗談だよ。おい、油を流してみよう」
「だな」
「かわいそうだから香油を使ってやれよ」
「ほいよ」
 女神さまがはまったままの壺の口の内側に香油が流され、少しずつ回すようにしながら女神さまが引っ張り出されます。そこまでしてもらってようやく、女神さまの小さなおしりが壺の中から出てきました。

 お苦しかったのでしょう、ぷはあっと女神さまは大きく息を吐かれます。やっと解放されたものの、腰をかがめたままぷるぷる震えていらっしゃいます。