めっと、エレナは悲しそうな顔で女神さまを見つめます。
「テオだっていつも言ってるでしょう。わたしたちは弱いから助け合わなきゃダメだって。お肉を食べるのはみんなで一緒にだよ」
 エレナの後ろでふたりの子どももこくこく頷いています。
「肉! わらわは肉が食べたいいいい」
「だから早くデニスを捜すんだよ。あの子ったら、いったいどこに」

「……デニス、劇場に行きたいって言ってた」
 有力情報にはたっとエレナは息を飲みます。
「広場の向こうまで? ひとりで?」
「わからないけど……」
「よし! 劇場だな!」
 女神さまがこぶしを握って叫ばれます。
「わらわが急ぎ捜してくる。おまえたちは先に行って肉をぶんどっておけ。よいな、わらわの肉をだぞ」

 ものすごい形相で言い捨てて女神さまは陶工区の路地を広場へ向かって走り出します。
「ティア。上からデニスを見つけるのじゃ」
 言われると思っておりましたとも。わたしはあきらめの境地で、家々の屋根を超える高さまで背中のはねをはばたかせたのでありました。




 広場には普段より多くの露店が出ていました。そぞろ歩く買い物客の中にデニスは見当たりません。笛をかき鳴らす楽人のまわりで乙女たちが花をまき散らしています。それを眺める人々の中にもデニスはいません。

 競技会に出場する吟遊詩人たちが、竪琴を抱え祭礼の歌を口ずさみながら劇場への道を歩いていきます。彼らの頭上を道なりに沿ってわたしも劇場へ向かいます。

 神殿が建つ丘のふもと、円形に配置された客席の長椅子は、競技会のために集まった見物客で埋まりつつありました。今にも詩人の語りが始まるようです。

 そんな中、舞台の裏の空き地では演劇のリハーサルが行われているようでした。仮面をかぶった人物が大仰な身振りでセリフを話しています。本番で舞台に運び込まれるのだろう道具類もその場にあります。ひときわ大きな壺の後ろから首を伸ばしている小柄な人影があります。
 先ほど陶磁器工房の庭を覗いていたエレナと同じように役者の演技を見ているようです。赤銅色の髪の子ども。デニスに間違いありません。

 確認したわたしは再び上空に舞い上がり、女神さまにご報告に戻りました。女神さまは広場を横切って丘への小道にさしかかったところで、息をついておられました。
「大丈夫ですか? デニスは劇場の裏にいましたよ」
「よし、向かうぞ」