「名前だ、名前」
 重ねて問われて察したらしい少年が何か言います。ですがうまく聞き取れません。
「わかった」
 半眼になって考えた後、再びテオは口を開きました。
「おまえは今日から、ポロだ。ポロ」
「ポロ……」
 何度か繰り返され、しぶしぶという感じで少年がつぶやき返しました。

「そうだ。……頼んだぞ」
 最後に念を押された奴隷係の男性はあきれたように眉を上げ、やはりしぶしぶといったようすで少年の腕を引きました。そこでようやく思い出したように問いかけます。
「ところで、こっちのちんちくりんは?」
「うちの居候だ」
 疲れたように答えるテオを、女神さまはほっぺを膨らませてじっと睨んでおられました。

「おまえって奴は。またか」
 ポロを連れて戻っていく男性たちと入れ違いにテオの知人の男性がやって来ました。先ほどの奴隷係の男と同じく、たいそうあきれた表情をしています。
「おまえのそれは、もう趣味だな」
「なんとでも言ってくれ」
 苦い顔で吐き捨てたテオがじろっと女神さまを睨み返しました。

「おまえはいったいなんのつもりだ?」
 う……と言葉に詰まった女神さまでしたが、すぐに体勢を立て直しぺったんこのお胸を反らせておっしゃいました。
「あの者が不憫でのう。わらわくらい姿も美しく、また賢いとなると、下々の者を気にかけるのは使命というものじゃ。わらわはわらわの使命に従いあの者を助けてやろうと思ったまでじゃ」

 堂々と適当な嘘をつかれるのは女神さまの七つの特技のひとつです。ですが今の「ちんちくりん」なお姿ではまったく説得力がありません。男性はあきれるのを通り越して顎を落としているし、テオは怒る気も失せたのか女神さまには何も言わずに男性の肩を叩いて促しました。

「こいつのことは気にしないでくれ」
「そうか。……腹が減ったな。戻ってメシを食おう」
 それを聞いて女神さまもその後ろに駆け寄ります。テオは小さく苦笑いしたようでした。




 荷揚げ倉庫のそばの建物は休憩所兼食堂になっていて、食事時でもないのに込み合っておりました。四六時中こんなありさまなのでしょう。仕事の合間に男性たちが思い思いの食べ物をお腹に入れていくようです。
 テオの知人の男性は厨房に声をかけました。自分の船から持ってきた小さな壺を差し出して調理してくれと交渉しているようです。

 やがて話がついたのか、込み合っている室内を避けて中庭の席に腰を落ち着けました。女神さまも大人しく椅子に座られます。食べ物をもらうにあたっては従順にしなければならないと体が覚えてしまったようです。この適応力はさすがです。