「戻ったか、ティア」
「はい、女神さま。みんな元気そうでしたよ」
「そうか、そうか」
 雲の上に腹ばいになってあくびをしている女神さまの後方では、父神である大神さまが、高御座(たかみくら)を囲んだ神々から愚痴や抗議や詰問を受けておられました。

「わかった、わかった。わかったから」
「わかっておられないから何度も言ってるのです。兄上は自分勝手すぎるのです!」
「父上、ぼくの神殿どうにかしてよ」
「もう、なんでもいいから宴会でもしようや。大戦争ができないならそれくらいは」
「海原の弟よ、おまえは酔っぱらうと地震を起こしてしまうじゃろうが」
「父上ー。ぼくの神殿」
「ああもう、うるさい! 人間に迷惑かけないためにも地上をしっかり監視しろと命じたばかりじゃろうが!」

 下界に干渉しないことは既に決まったことであり、そうであるならば二度と神々の事情に人間を巻き込まないようにする。それがこれからの神々の在り方ではないかと模索中なのです。時はめぐって時代は変わる。だとしても、良い関係でいられるように……。

「はあ。もう煙は懲り懲りなのに。どうして人間は懲りないのさ?」
 あの戦の最中に放たれた雷は、神託の神殿のあの霧が噴き出る岩にも落下していました。建物を貫通して直撃を受け、粉々になった岩の下からは何も出てこなくなったのです。
 すると神官たちは、なんと今度は怪しげな薬草を燃やし始めたのです。今でも地下のあの部屋では、煙で意識をもうろうとさせた巫女が託宣としてなにやら告げているそうです。
「勘弁してくれええ」
 弟君のお嘆きももっともです。

「しょうがないのう」
 女神さまはつぶやかれます。しようがないですよね、人間て。だからやっぱりしばしば、神々は下界を見守っていらっしゃるのです。
「みなが元気ならそれがいちばんじゃ。そのうちこっそり下界に降りてみるかのう」
「その前にまたお仕置きで蹴り落されないようになさらないと」
「なにおう」

 なにはともあれ、こうして女神さまは天上に戻られ、下界も今は希望に満ちております。
 聞いた話では、こうした物語の最後はある言葉でしめくくるのが良いそうですね。なのでわたしも、それに倣ってみましょうか。
 それではみなさま。
 めでたし、めでたし。