──こいつら彼女見たいって無理やりついてきちゃって……。
それは違う。自惚れるつもりはないが、一颯くん自身が〝年上の彼女〟を友達に見せたかったのだ。わたしもそういうことをした経験があるからわかる。
本当についてきてほしくなかったのなら、わざわざ彼女と待ち合わせしているなどと言わない。知られたくないなら隠すのだ。わたしは、彼氏ができたことさえ誰にも言えていない。
──もしかして弟さんですか?
すぐに否定できなかった。
彼女はわたしに長らく彼氏がいなかったことを知っている。一颯くんのことを彼氏だと紹介するのが──明らかに年が離れている男の子に手を出すほど男に飢えていたと思われるのが、恥ずかしかった。
──スタイリストになれたら、一番にこの実さんの髪触らせてほしい。
真っ先に『ありがとう』と言えなかった。
一颯くんにとって、恋人との明るい未来を思い描くのは当然のことなのだろう。
だけど、わたしはそうじゃない。
出会いがあれば別れもある。どんなに激しく燃え上がった愛も、些細なきっかけで鎮火する。どんなに強い絆で結ばれていると信じていても、いとも簡単にほどける。それを知ってしまった今、当たり前にハッピーエンドを想像できなくなっていた。ただでさえそうなのに、八歳も離れた少年との明るい未来など思い描けるはずがない。
焦っているというほどではないが、わたしだってそれなりに結婚願望がある。できれば、あと数年のうちにと。
わたしが本格的に焦りだす頃、一颯くんは新たな世界に飛び込み、社会に揉まれながらスタイリストを目指して奮闘する。しばらくは結婚など考える余裕がないだろう。
つまり、おそらくそう遠くないうちに、この関係は終わる。
大丈夫。ちゃんとわかっている。
隣ですやすやと眠っている一颯くんの頬にそっと触れた。あどけない少年だと思っていたはずの彼の横顔が、不思議と〝男〟に見えた。
──ただこの実さんに似合いそうだと思ったから。
こんなに真っ直ぐ、全力で気持ちをぶつけられることは、もうないだろうと思っていた。
全部全部、余計なことを一切考えず素直に喜べたらいいのに。
「……こんなの、ほだされちゃうよなあ」
どっちが先だろう?
彼が現実に気付くのと、わたしが限界を迎えるのと。
それまでは、この純愛ごっこに身を委ねてみようか。