「なにやってんの?」

 はっと我に返って顔を上げた。
 今日は仕事が定時で終わり、飛鷹は職場の飲み会だったから、久しぶりにひとりの時間を過ごしていた。
 飛鷹はあたしが持っているノートをひょいっと取り上げる。見ていいなんて許可していないのに。

「なにこれ。なんでピアスの絵なんか描いてんの?」
「最近うちの会社の新作が発表されたんだけど……」
「は? おまえ総務部だろ?」
「そうだけど、こういうデザインも可愛いかなって、なんとなく……」
「意味わかんねえ。なんで誰に見せるわけでもねえ案なんか考えてんの?」

 飛鷹はいつもあたしが喋っている途中でぶった切って、最後まで言わせてくれない。
 ただ新作ピアスのポスターが会社の廊下に貼られているのを見た日からイメージが一気に湧いて、今日は久しぶりに暇な時間ができたから、長いこと眠らせたままだった色鉛筆やカラーペンを取り出して色をつけていた。
 どうして飛鷹が帰ってきたことに気付かなかったんだろう。楽しくてつい没頭してしまった。

「……だから、なんとなく」
「まあいいけど。もう遅いしさっさと寝ろよ」

 言いながら、テーブルにノートを投げた。宙で反転して、あたしが描いていたページがテーブルに叩きつけられてぐしゃっと折れる。
 飲み会が楽しかったのか、今日は機嫌がいいらしい。ひとまずほっとして、ぐちゃぐちゃになったページを手で伸ばした。