部屋に引き篭もるだけの私の人生は一変した。
 アキと一緒に起きて、朝ごはんを食べる。
 出かけるアキを、あの部屋から見送る。
 夕方に帰ってきたアキを出迎えて、一緒に家の中を歩く。
 そしてアキとご飯を食べた後、一緒にお風呂に入る。
 今だに緊張してどうにかなってしまいそうだけど。
 一日の最後は一緒に楽しい話をしながら一緒に眠る。本当に、本当に楽しい毎日。こんな時が訪れるなんて思ってもいなかった。
 その中でも1人でいる時間は寂しかったが、この時間で外の世界に適応するための努力をすると方針を決めた。
 役立たずのままでは終われないから。何か役に立てそうなことを必死に探す。
 とりあえず、暇なのでこの国の歴史を学ぶ。
 そもそも、何かを学ぼうにも、この家には埃まみれの絵本しかなかった。
 
 この国には千年以上のの歴史があり、代々、王位継承権を与えられた人達が王位を求めて争ってきた、らしい。
 このことについては疑問ばかりだった。
 なぜこの国が成立してきたのか全くわからない。
 こんなめちゃくちゃな方法で国のトップを決めたら、普通は国が崩壊しそうなものだ。
 だけど、私が十回以上死ねるほどの時間が流れてる、らしい。
 いや、実際に見てないからわからないんだよ。
 そもそも、経済とかどうなってるんだろう。私も全くわからないから、そこら辺はなんとも言えないけど。
 アキに聞いてみたが「王様は強いからね。いつか会えたらわかるよ」と答えになってない答えが返ってきた。
 知れば知るほど、自分がなぜアキから必要とされたのかという疑問が湧いてくる。
 懐に置いておくにはあまりにも危険で面倒な存在。
 アキに私をなぜ必要としてくれたのか聞いたところ、答えだけは返ってきた。

「うーむ………… 実は私を守る騎士様が欲しかったんだよ! ハルにはピッタリの役割でしょ?」

 まぁ、完全にはぐらかされたんだけど。
 アキはそんなものは要らないはず。私の側にいることの方が危険なんじゃないかとすら思える。
 そもそも、家で引き篭もるナイトなんて笑えない冗談だ。しかも、私は女だし。
 多分、アキは何かを隠してる。
 でも、これ以上考えても意味はない。
 私はアキ以外の選択肢を捨てたから。だからもう詮索は辞めた。
 勉強なんてしてもしょうがないし、何よりもつまらなかったからすぐに飽きてしまった。
 歴史という名前の常識を少し齧った程度で終わり。
 でも、知ってどうにかできるものではないし、大切なのはアドリブ力だ。
 まぁ、そういう事にしておこう。
 
「ほっ……、当たった」

 水の玉を作って手作りの的に当てる。
 昔、暇な時は色んな人に見せてたっけ。
 どうせ、選択肢は私にないんだし。魔法で遊んでいた方が今後のためにもなるし、楽しいと自分を納得させた。

 ◇
 
「アキ、おかえり」
「たっ、だいまー!」
「ほら、いっぱい買ってきたよ!」
「う、うん……」

 今日は私を着せ替え人形にして遊ぶらしい。
 朝、出かける前に宣言していた。
 正直言って気がのらない。
 
「アキ。今後の目標を、決めまして……」
 
 だから、とりあえず誤魔化すために目標を決めたことをアキに伝える事にした。
 このまま、されるがままは少し悔しい。

「ふーん……。それで? ハルの目標を聞こうじゃない」

 私は顔を真っ赤にして、ちょっと噛みながらこう宣言する。

「こ、この家を、アキと手を繋ぎながら外に出る」
「いいじゃん、それ……! 最高だよハル!」

 アキに抱きつかれる。
 興奮で気持ちがぐちゃぐちゃになる。
 こんな状況なのに魔法は発動しない。
 そうか、アキに抱きつかれているからだ。
 そんなことを考えていた私はぶっ倒れた。