30分をほど車を走らせ到着したのは、地元では有名な山の上にある夜景スポット。
時間的にはまだ夜景は見れないけれど、展望台からは綺麗な夕陽を見ることができそうな時間帯だったということで、ここに行くことになった。
土日ともなると親子連れやカップルがたくさん訪れるこの場所は、わたしとお母さんもお気に入りで、こうやってたまにドライブでぶらりとやってくることがある。
「よかったね。夕陽には間に合いそうよ」
家ではぐったりと疲れ切っていたお母さんの表情もすっかり明るくなっていて、わたしもちょっぴりホッとした。
展望台に行くまでにはしばらく長い階段を登らなければならなかったけれど、ここでは途中ですれ違う人と挨拶をしたりすることもあって嫌いではない。
前来た時も初対面の人と仲良くなって、一緒に頂上で写真撮影をしたりもした。
それくらいアットホームな雰囲気だから、いつもは張り詰めているわたしもちょっとだけ気を緩めることができる。
途中で何度か休憩を入れながらようやく展望台に着くと、下にいる時よりも頬を撫でる風がひんやりと冷たくて、なんだか清々しい気持ちになった。
周りを見渡すとカップルが多くてなんだか少し気まずい気がしたけれど、わたしは手すりにもたれかかって、目を細めながら太陽が沈むのを静かに待った。
うっすらとした雲がゆっくりと流れ、鳥のさえずりが聞こえている。
学校で過ごしている時間とは比べ物にならないくらい平和な時間がゆっくりと流れていて、わたしは「時間が止まってくれればいいのに」と心の中でつぶやいた。
「見て、お母さん。すごいよ。めっちゃきれい」
しばらくぼんやりとしていると、太陽がゆっくりと海に沈みかけ、空一面が鮮やかなオレンジ色に照らされはじめた。
水面に反射した光で海もキラキラと光って見える。
わたしはトートバックからスマホを取り出し、隣で空を眺めていたお母さんに声をかけた。
「ねぇ、お母さん。一緒に写真撮ろう」
「いいよ。きれいに撮れるといいわね」
ベンチに荷物を置いて夕陽をバックにして2枚写真を撮ると、大きなオレンジ色のキャンパスの上にふたりで並んでいるようにも見えた。
こうやってお母さんと一緒にいる時は「自分も案外普通なのでは?」って思えるし、事実、元気に笑い合うことだってできる。
だけど学校という集団の中に入ってしまうと、急に窮屈になって窒息してしまいそうになる。
自然と声を出してお喋りできるのも、自分らしくいられるのも、笑顔になれるのも、家族の前だけ。
みんなの前ではこんな風に元気にしている姿なんて見られたくもないし、そもそも誰にも見つかりたくもない。
だって「ゆりなが調子に乗っていた」とか「ゆりなのくせに」とか言われてしまいそうな気がして、すごく怖いから。
スマホをトートバックに片付けていると、どこからか聞き慣れた声がしてきて、思わず全身に力が入った。
「ゆりなってそんなに笑うんだな。俺、そんなに笑ってるゆりなはじめて見たよ」
さっき横断歩道で見かけたともやくんが、少し驚いたような口調で話しかけてきた。
「俺の家に親戚が来ててさ。みんなで夕陽を見に行こうって話になったら、偶然ゆりな見かけて。でもあまりにも楽しそうにしてたからすぐに声をかけきれなくて」
すぐに声をかけきれなくて・・・・・・?
ということはわたしのことにずっと前から気がついていたのだろうか?
絶対に学校の友だちに見られたくない素の自分を見られてしまったことが恥ずかしくて、一気に顔が赤くなるのがわかった。
「学校でも今みたいに笑えばいいのに。笑っている方が絶対いいと思うよ」
はにかむような笑顔で言うともやくんの言葉はまっすぐで、友だちに褒められることに慣れていないわたしは、どのように反応していいのか分からず足元に目線を落とした。
どうしてともやくんはこんなにもいつも優しいのだろう。
嬉しいはずなのにわたしが何も返事をすることができず困っていると、ともやくんがにっこりと笑って言った。
「絶対に今のゆりなの方がいいって。だって楽しそうだったよ。じゃあ、みんな待ってるから俺はそろそろ帰るね。明日また学校で」
わたしに笑いかけるともやくんの表情には優しさがあふれていて、かたく閉ざされていたわたしの心に、あたたかな光が差し込んだような気がした。
だけど、ありがとう、っていう言葉さえ言えなくて、わたしは小さく頷くことしかできなかった。
本当はせっかくのチャンスだったんだから少しくらい話したかったけれど、そんな勇気なんて持っていない。
それに、もし誰かに見られていたらってどうしようって思うと、声すらまともに出ない。
やっぱりわたしはどこにいても学校の友だちの視線が気になってしまうし、悪口を言われることを恐れている。
一瞬だけ喜んでしまった自分がいるけれど、すぐに明日の学校のことが頭をよぎってしまい気持ちが沈んでしまう。
気がつくとさっきまで見えていた太陽もすっかり沈んでしまい、暗くなってしまった空はわたしの心を反映しているかのようだった。
時間的にはまだ夜景は見れないけれど、展望台からは綺麗な夕陽を見ることができそうな時間帯だったということで、ここに行くことになった。
土日ともなると親子連れやカップルがたくさん訪れるこの場所は、わたしとお母さんもお気に入りで、こうやってたまにドライブでぶらりとやってくることがある。
「よかったね。夕陽には間に合いそうよ」
家ではぐったりと疲れ切っていたお母さんの表情もすっかり明るくなっていて、わたしもちょっぴりホッとした。
展望台に行くまでにはしばらく長い階段を登らなければならなかったけれど、ここでは途中ですれ違う人と挨拶をしたりすることもあって嫌いではない。
前来た時も初対面の人と仲良くなって、一緒に頂上で写真撮影をしたりもした。
それくらいアットホームな雰囲気だから、いつもは張り詰めているわたしもちょっとだけ気を緩めることができる。
途中で何度か休憩を入れながらようやく展望台に着くと、下にいる時よりも頬を撫でる風がひんやりと冷たくて、なんだか清々しい気持ちになった。
周りを見渡すとカップルが多くてなんだか少し気まずい気がしたけれど、わたしは手すりにもたれかかって、目を細めながら太陽が沈むのを静かに待った。
うっすらとした雲がゆっくりと流れ、鳥のさえずりが聞こえている。
学校で過ごしている時間とは比べ物にならないくらい平和な時間がゆっくりと流れていて、わたしは「時間が止まってくれればいいのに」と心の中でつぶやいた。
「見て、お母さん。すごいよ。めっちゃきれい」
しばらくぼんやりとしていると、太陽がゆっくりと海に沈みかけ、空一面が鮮やかなオレンジ色に照らされはじめた。
水面に反射した光で海もキラキラと光って見える。
わたしはトートバックからスマホを取り出し、隣で空を眺めていたお母さんに声をかけた。
「ねぇ、お母さん。一緒に写真撮ろう」
「いいよ。きれいに撮れるといいわね」
ベンチに荷物を置いて夕陽をバックにして2枚写真を撮ると、大きなオレンジ色のキャンパスの上にふたりで並んでいるようにも見えた。
こうやってお母さんと一緒にいる時は「自分も案外普通なのでは?」って思えるし、事実、元気に笑い合うことだってできる。
だけど学校という集団の中に入ってしまうと、急に窮屈になって窒息してしまいそうになる。
自然と声を出してお喋りできるのも、自分らしくいられるのも、笑顔になれるのも、家族の前だけ。
みんなの前ではこんな風に元気にしている姿なんて見られたくもないし、そもそも誰にも見つかりたくもない。
だって「ゆりなが調子に乗っていた」とか「ゆりなのくせに」とか言われてしまいそうな気がして、すごく怖いから。
スマホをトートバックに片付けていると、どこからか聞き慣れた声がしてきて、思わず全身に力が入った。
「ゆりなってそんなに笑うんだな。俺、そんなに笑ってるゆりなはじめて見たよ」
さっき横断歩道で見かけたともやくんが、少し驚いたような口調で話しかけてきた。
「俺の家に親戚が来ててさ。みんなで夕陽を見に行こうって話になったら、偶然ゆりな見かけて。でもあまりにも楽しそうにしてたからすぐに声をかけきれなくて」
すぐに声をかけきれなくて・・・・・・?
ということはわたしのことにずっと前から気がついていたのだろうか?
絶対に学校の友だちに見られたくない素の自分を見られてしまったことが恥ずかしくて、一気に顔が赤くなるのがわかった。
「学校でも今みたいに笑えばいいのに。笑っている方が絶対いいと思うよ」
はにかむような笑顔で言うともやくんの言葉はまっすぐで、友だちに褒められることに慣れていないわたしは、どのように反応していいのか分からず足元に目線を落とした。
どうしてともやくんはこんなにもいつも優しいのだろう。
嬉しいはずなのにわたしが何も返事をすることができず困っていると、ともやくんがにっこりと笑って言った。
「絶対に今のゆりなの方がいいって。だって楽しそうだったよ。じゃあ、みんな待ってるから俺はそろそろ帰るね。明日また学校で」
わたしに笑いかけるともやくんの表情には優しさがあふれていて、かたく閉ざされていたわたしの心に、あたたかな光が差し込んだような気がした。
だけど、ありがとう、っていう言葉さえ言えなくて、わたしは小さく頷くことしかできなかった。
本当はせっかくのチャンスだったんだから少しくらい話したかったけれど、そんな勇気なんて持っていない。
それに、もし誰かに見られていたらってどうしようって思うと、声すらまともに出ない。
やっぱりわたしはどこにいても学校の友だちの視線が気になってしまうし、悪口を言われることを恐れている。
一瞬だけ喜んでしまった自分がいるけれど、すぐに明日の学校のことが頭をよぎってしまい気持ちが沈んでしまう。
気がつくとさっきまで見えていた太陽もすっかり沈んでしまい、暗くなってしまった空はわたしの心を反映しているかのようだった。