あの日、しばらくして教室に戻ってくると黒板にパズルと書かれていて、その下にはなぜかわたしの名前のほかにともやくんの名前もあった。
大人数でわいわいと作業する方が好きだと思っていたともやくんが、どうして地味なパズルなんかを選んだのかはわからない。
それにパズルを選んだりしてしまうと、わたしとふたりきりで作業をしないといけなくなることくらい、きっとわかっていたと思うのに。
だから正直びっくりしたし、戸惑ったし、どうしてなのって思ったのが本音・・・・・・。
だけど、本当は・・・・・・、ちょっぴり嬉しくもあった。
わたしがともやくんとうまく話せる自信なんて全くないけれど、一緒の時間を共有している光景を想像するだけでなんだか胸がワクワクした。
こんなわたしなんかと一緒だなんて申し訳ないなって思ったりもしたけれど、はじめて学校という場所に来るのが少しだけ楽しみにも思えた。
だけど・・・・・・。
ずっとそんな淡い期待のまま過ごせたらいいなって思ってはいたけれど、現実はわたしの予想を裏切ることなんて絶対にしない。
今まで以上にみんなの前から存在を消してしまいたいって思ったし、誰の迷惑にもならないようにしなくちゃいけないって思ったし、人とは関わらない生活を送っていこうって、そう心に強く誓った。
わたしの人生って所詮その程度のものだったんだということを改めて悟ったし、神様なんてこの世に存在しないのかなって思ったりもした。
いや、ちがう。わたしは神様にさえ見捨てられたのかもしれない。
「ちょっとゆりな、どういうこと? なんでともやくんがゆりなとふたりでパズルなわけ? 絶対に裏で何か仕組んでたでしょ?」
みなみの率いるクラスの中心的グループがわたしの席の周りに集まってきて、怒りをあらわにして責め立ててきた。
だけどともやくんがどうしてパズルを選んだかなんてわたしにもわからないし、決して企んでいたわけでもない。
むしろ理由なんてわたしの方が知りたいくらい。
「何もしてないよ。わからない。多分偶然かなって・・・・・・」
「そんな偶然があるわけないでしょ? ゆりなの方から”一緒にやろう”とでも言わないかぎり、ともやくんがあんたと一緒にするわけないじゃん。ま、もしくはともやくんがあんたのことを”ひとりぼっちの可哀想な子”って思って同情してあげただけかもしれないけどね」
「ごめん・・・・・・。そんなつもりじゃなかった・・・・・・」
わたしはどうして自分が”ごめん”だなんて言っているのかわからなかったけれど、みなみたちにとにかく謝らなければならないって思うと、ひたすら謝り続けることしかできなくて。
だから掠れた声で何度も「ごめんね」って言い続けた。
「本当うざいわ。見てるだけでイライラする。ーーーあ、今日ファミレス行かない? 新商品のパフェが出たらしいよ」
わたしに対する怒りと、新商品のパフェは同じ程度の認識なのだろうか。
みなみは鋭い目でこちらを睨みつけたあと、声を裏返して放課後の予定へと一瞬で話題を変えた。
みなみたちにとってはわたしが悲しもうが、苦しもうが、悩もうが、そんなのどうでもいいことなのだと思う。
自分たちが楽しければ、他の人の気持ちなんて全く気にならないのかもしれない。
わたしはアルバイトに向かうために、荷物をとりにロッカーへと向かった。
窓が開いていてカーテンが風に吹かれて大きく揺れた瞬間、わたしは校舎の下になんとなく目をやった。
体育館の近くにある中庭に革靴が投げ捨てられているのが視界に入り、直感的に「急いで取りに行かなくちゃ」と思った。
どうしてなのかわからないけれど、誰のだろうという疑問よりも、あの靴は絶対に自分の靴だという強い確信が湧いたから。
普段は走ることなどない廊下を駆け降りて、土で汚れた革靴を手に取ると、やっぱりその革靴はわたしのものだった。
今まで言葉や態度として悪く言われたことは何度もあったけれど、こんな風に物を捨てられたりしたのは始めて。
犯人を探し出そうとかいう気持ちは全然湧いてこなくて、ただひたすら悲しくて、辛くて、苦しくて。
泣くつもりなんてなかったのに頬をすーっと涙が伝っていき、急いで制服の裾で瞼を抑え、誰にも見られていないか周囲を見渡した。
もうわたし、限界かもしれない。
どうしてこんな時にともやくんが近くにいてくれないんだろう。
なぜだか自分でもわからないけれど、わたしはともやくんの存在を求めてしまった。
彼ならきっとそばにいて静かにこの苦しみを分かち合ってくれるかもしれない、そんな気がしたけれど首をぶんぶんと横に振って、そんなわけないじゃんって自分に言い聞かせた。
わたしは革靴を下駄箱に戻してもう1度教室に戻ると、誰とも顔を合わせないように荷物を急いでまとめて、走って学校の門を駆け出した。
こんな場所なんて、本当にだいきらい。
大人数でわいわいと作業する方が好きだと思っていたともやくんが、どうして地味なパズルなんかを選んだのかはわからない。
それにパズルを選んだりしてしまうと、わたしとふたりきりで作業をしないといけなくなることくらい、きっとわかっていたと思うのに。
だから正直びっくりしたし、戸惑ったし、どうしてなのって思ったのが本音・・・・・・。
だけど、本当は・・・・・・、ちょっぴり嬉しくもあった。
わたしがともやくんとうまく話せる自信なんて全くないけれど、一緒の時間を共有している光景を想像するだけでなんだか胸がワクワクした。
こんなわたしなんかと一緒だなんて申し訳ないなって思ったりもしたけれど、はじめて学校という場所に来るのが少しだけ楽しみにも思えた。
だけど・・・・・・。
ずっとそんな淡い期待のまま過ごせたらいいなって思ってはいたけれど、現実はわたしの予想を裏切ることなんて絶対にしない。
今まで以上にみんなの前から存在を消してしまいたいって思ったし、誰の迷惑にもならないようにしなくちゃいけないって思ったし、人とは関わらない生活を送っていこうって、そう心に強く誓った。
わたしの人生って所詮その程度のものだったんだということを改めて悟ったし、神様なんてこの世に存在しないのかなって思ったりもした。
いや、ちがう。わたしは神様にさえ見捨てられたのかもしれない。
「ちょっとゆりな、どういうこと? なんでともやくんがゆりなとふたりでパズルなわけ? 絶対に裏で何か仕組んでたでしょ?」
みなみの率いるクラスの中心的グループがわたしの席の周りに集まってきて、怒りをあらわにして責め立ててきた。
だけどともやくんがどうしてパズルを選んだかなんてわたしにもわからないし、決して企んでいたわけでもない。
むしろ理由なんてわたしの方が知りたいくらい。
「何もしてないよ。わからない。多分偶然かなって・・・・・・」
「そんな偶然があるわけないでしょ? ゆりなの方から”一緒にやろう”とでも言わないかぎり、ともやくんがあんたと一緒にするわけないじゃん。ま、もしくはともやくんがあんたのことを”ひとりぼっちの可哀想な子”って思って同情してあげただけかもしれないけどね」
「ごめん・・・・・・。そんなつもりじゃなかった・・・・・・」
わたしはどうして自分が”ごめん”だなんて言っているのかわからなかったけれど、みなみたちにとにかく謝らなければならないって思うと、ひたすら謝り続けることしかできなくて。
だから掠れた声で何度も「ごめんね」って言い続けた。
「本当うざいわ。見てるだけでイライラする。ーーーあ、今日ファミレス行かない? 新商品のパフェが出たらしいよ」
わたしに対する怒りと、新商品のパフェは同じ程度の認識なのだろうか。
みなみは鋭い目でこちらを睨みつけたあと、声を裏返して放課後の予定へと一瞬で話題を変えた。
みなみたちにとってはわたしが悲しもうが、苦しもうが、悩もうが、そんなのどうでもいいことなのだと思う。
自分たちが楽しければ、他の人の気持ちなんて全く気にならないのかもしれない。
わたしはアルバイトに向かうために、荷物をとりにロッカーへと向かった。
窓が開いていてカーテンが風に吹かれて大きく揺れた瞬間、わたしは校舎の下になんとなく目をやった。
体育館の近くにある中庭に革靴が投げ捨てられているのが視界に入り、直感的に「急いで取りに行かなくちゃ」と思った。
どうしてなのかわからないけれど、誰のだろうという疑問よりも、あの靴は絶対に自分の靴だという強い確信が湧いたから。
普段は走ることなどない廊下を駆け降りて、土で汚れた革靴を手に取ると、やっぱりその革靴はわたしのものだった。
今まで言葉や態度として悪く言われたことは何度もあったけれど、こんな風に物を捨てられたりしたのは始めて。
犯人を探し出そうとかいう気持ちは全然湧いてこなくて、ただひたすら悲しくて、辛くて、苦しくて。
泣くつもりなんてなかったのに頬をすーっと涙が伝っていき、急いで制服の裾で瞼を抑え、誰にも見られていないか周囲を見渡した。
もうわたし、限界かもしれない。
どうしてこんな時にともやくんが近くにいてくれないんだろう。
なぜだか自分でもわからないけれど、わたしはともやくんの存在を求めてしまった。
彼ならきっとそばにいて静かにこの苦しみを分かち合ってくれるかもしれない、そんな気がしたけれど首をぶんぶんと横に振って、そんなわけないじゃんって自分に言い聞かせた。
わたしは革靴を下駄箱に戻してもう1度教室に戻ると、誰とも顔を合わせないように荷物を急いでまとめて、走って学校の門を駆け出した。
こんな場所なんて、本当にだいきらい。