『ヒナマツリ?』
『そう、雛祭り。年に一度の女の子のお祝いの日なんだ』
『ふぅん、初めて知った!!!こんぱるは物知りだなぁ』
『そんなんじゃ、ない』
『アレは?道にいっぱいあるピンクのお花!!!』
『この花は桃だよ。雛祭りにはモモの花を添えることが多いんだ。モモの花言葉は、チャーミング、天下無敵、あとは……』
『あとは?』


「っ……」

目を開くとそこは一面の快晴だった。
なんだ俺、散歩のついでに草っぱらに寝転んだらそのまま寝落ちしたのか。
まだ重たい瞼を擦り、ゆっくり上半身を起こす。春一番が草肌を撫でた。風と一緒に淡い桃色の花びらが舞う。

「ぅ……あ……モモ……花言葉は……」

あの時、君に言えばよかった。
夢に出てきた君は美しくて、触れてしまえば花びらのように儚く散ってしまいそうで。
俺がその言葉を言ってしまえば消えてしまう、そんな予感がした。
だから俺はあの時、何も言わなかったのだろうか。
……言えなかったのだろうか。

「モモの花言葉は、チャーミング、天下無敵、あとは」

喉の奥が震える。目尻に涙が滲んだ。

「私はあなたのとりこ」