模擬決闘の開始時間が近づくにつれ、会場はかなりの盛り上がりを見せていた。
外の様子を見てきたメリリによれば、

「なんか大波って感じです。荒れた海で海獣たちが暴れまわってるみたいな!」

とのこと。
表現自体はよく分からないが、ともかくスタンドは満員で、今か今かと対決の幕が切って落とされるのを待っているらしい。

模擬決闘は決して多くない娯楽のなかで、かなり刺激的なイベントの一つだ。

大多数はそれを楽しみにしているようで、その後に予定されている公開決議の方はついでとでも思われているようだ。

となれば、やはりこの戦いの結果は次期領主の選考に大きく影響すると見て間違いなさそうだった。

「なぁセレーナ。あいつの魔法、鑑定したことがあるか?」
「あるわよ。特徴でいえば――」

なんて、セレーナから話を聞いているうち、開始時間がいよいよ目前にまで迫る。

が、俺はぎりぎりまで控室にとどまった。

クロレルとは違って俺は、わざわざ人目にさらされるのは好きではない。
注目されるのは大の苦手、基本的に陰の者なのだ。

しかし控室を訪れた運営委員に舞台へ上がるよう促されたら、これ以上は粘れなさそうだった。

「やりたいようにやってきて。私たちは上で見てるから」
「そうです、アルバ様! 今だけはセレーナ嬢に全面同意です!」

控室を出たところで、二人と別れる。

最後にもらった言葉は俺に勇気を与えてくれた。おかげで、心置きなく負けられるというものだ。

俺は意気揚々と(ある意味)、フィールドを目指す。

「…………あ」

ちなみに親父から貰った魔導武器たちをすべて控室に置いて来たことに気付いたのは、闘技場内へと出てからのことであった。

そもそも勝つ気がなかったため、完全に失念していたのだ。

まぁ仕方ないね。