「……そこまで分かっているとは、噂に聞いていたのとはまるで違う。かなりの切れ者ですね、アルバ・ハーストン」
「そんな大したことじゃない。で、話す気にはなったか? というか、全て白状してくれ。さっきも言ったが、俺はお前を殺すつもりはない」
「……なぜだ。自分を狙っていた暗殺者だぞ?」
「お前を殺したところで、次の暗殺者が差し向けられるだけだよ。クロレルの陰険な性格はよく理解しているつもりだ。だから俺はお前を殺さない。それに……」
「まだ、なにか理由があるのですか?」
「一番大事なことだ。お前を殺して血が飛んだりしてみろ。俺の寝覚めが悪くなるだろ。悪夢を見るのは御免なんだよ」
「頭が切れるかと思ったら、なにを言うのでしょう、あなたは」
「応じるか応じないかだけ答えてくれればいい。まだ応じないというなら、死ねない程度の拷問にかける。どっちの選択が賢いかくらい分かるだろ?」
って、そんな方法を知っているわけでもないからただのハッタリなのだけど。
俺は嘘を悟られまいと、強い視線でもって黒装束の男を正面から見つめる。
「…………分かりました。応じましょう」
無事に、期待通りの回答を引き出すことに成功した。
とはいっても、黒装束の男が話した内容はほとんどが俺の推理と同じ内容であった。
やはり多額の報酬でクロレルの命を受けて、ここへ遣わされ、諜報役と暗殺の両方を担っていたという。
「ということは私がここにいることも、もうクロレルの耳に入ってるの?」
「はい、セレーナ様のおっしゃる通りです。それも依頼の一つでした。クロレルの婚約者だったセレーナ様、それに屋敷のメイドだったメリリ様、二人がここにいることは報告済みです」
「そう。面倒なことになる予感がするわね」
セレーナが苦々しく言うのに、
「あたしも……」
と、メリリは両の肩を抱える。
たしかに、あのクロレルのことだ。
婚約者であるセレーナはもちろん、俺の身体を使って勝手に関係を持とうとしたメリリのことも諦めてはいまい。
「……報酬額を3倍にするから、アルバ様を殺し、お二人を連れ帰るよう命を受けておりました。拙者が現時点で把握しているのはここまででございます」
事実として、そうだったようだ。
となると、クロレルは確実に今後も俺たちのことを狙ってくる。
対策を考えなければ、スローライフを堪能できる未来は到底やってきそうにもない。
人材不足、クロレルシティの惨状、暗殺計画――。
複合的な要素を鑑みて考えていると、俺の耳元でセレーナが囁く。
「一つ策があるかもしれないわ。聞く?」
俺は迷わず首を縦に振った。
彼女が優秀な人材だということは知っている。どんな提案であれ、自分一人だけで考えるよりはいいものが生まれるにちがいない。
実際そうして聞いた彼女の策は、この面倒な状況を一気に覆せるような手段であった。
俺は再び、黒装束の男を見やる。
それとともに足を拘束していた土属性魔法を解除してやった。
「あ、アルバ様……。拙者に逃げてもよいと申すのですか」
「いいや、そういうわけじゃない。ここからは取引をしたいんだ。だから、対等な立場で話を聞いてほしいと思った。妙な真似をすれば、再び拘束する」
「取引ですか」
「あぁ。端的に言おう。お前、俺たちの仲間になってくれないか」