クロレルが俺と入れ替わっているとき、メリリに手をつけようとしていた。

そんな恐ろしく衝撃的な事実が判明したものの、とりあえずは話がついた。

……そう思っていた翌日のこと。

「アルバぼっちゃま」

俺が目を覚ましたのは、またしても彼女に襲撃を受けたからであった。

「……メリリ」

俺は身体を起こす。
彼女は足音を立てないようゆっくり窓枠から降りると、ベッドのへりに腰掛けした。

またしても窓から入ってきた点はさておいて、昨日よりは数段落ち着いている。
少なくとも、そう感じた。

彼女をそう見せるのは、たぶん化粧と寝間着だ。
昨日は年齢に似合わず子供っぽい仕立てだったのが、今日はシンプルな絹のガウン。サイズ感も彼女の背丈にぴったりで、谷間がのぞくあたり、普段にはなく煽情的な趣をしている。

そして、化粧の具合も違った。
元来の整った顔が、さらに引き立てられていたのだ。
月夜に映える白肌に、紫色に近い朱のリップなど、その印象はかなり変わっていた。

思わず見つめてしまっていると、彼女は俺の肩に頭を預ける。

いつもよりさらに甘い匂いに、頭がしびれた。

「な、なにをしにきたんだよ、昨日の今日で」
「……昨日言いましたよ、あたし。これからは本気でぼっちゃまを……、いえ、アルバ様を落としに行くと。なのでさっそく来たまでですよ」

十年来の呼び方が変わった。
それは、変化させたいという意志の表れなのだろう。そこに驚いていると、彼女は俺の髪をまとめるようにして、首裏へと手をやる。

「さぁ、あたしは覚悟できていますよ。逃げないなら、このままキスしますから」

まるで昨日と同じ展開だ。
メリリは目を閉じると、とんがらせた唇をそっとこちらへ寄せてくる。

そこで電流が走ったようにある記憶が頭を駆け巡った。

「この匂い、嗅いだことがある……」
「えっ」

たしか、俺がまだクロレルと入れ替わっている時のこと。

この香りを嗅いだのは、街で横行していた闇市を極秘視察に行ったときのこと。
そのとき出回っていた違法化粧品と同じ香りだ。

俺はすぐさま、枕元に置いていた魔導灯をつける。

「ちょ、アルバぼっちゃま。そんなことをしたらセレーナ嬢に……」

と、メリリは焦る。
実際、セレーナを起こしてしまったらしく

「……どうしたの、眩しい。というか、どうしてメリリが?」

彼女は寝ぼけまなこをこすりながら、首をかしげる。
だが、状況を説明している場合でもない。

「あとで言うよ。起こして悪い。とりあえず、だ。メリリ、顔をよく見せてくれ」
「うえぇっ!? そ、そういう趣味ですか。あえて見せつけてやる、とかそういう高度な趣味ですか、アルバ様……! って、ふえ?」
「違うよ、ちょっとだけ動かないでくれ」
「ひゃ、アルバ様……! は、はいぃ!!」

俺はぎゅっと目をつむるメリリの唇に親指をかける。
ぽつぽつと白く膨れているその特徴を見て、俺の嫌な予感は確信へと変わった。

「それ、毒ね。ジギタール、遅効性の毒よ」

横からセレーナもこう補足するのだから、間違いない。