少し荒くなった生ぬるい息が顔に吹きかかるのが、こそばゆい。
そのうえ、耳たぶを優しく触られたりなんかすれば、危うく声が出かける。

「ふふ、可愛いぼっちゃま」

そのうえ耳元に口を寄せて、こんなことを言ってくるのだから、耐えるのが精一杯になる。

それをどう捉えたのか、メリリは今度、人差し指を俺の顔に這わせて、唇まで持ってくる。
そうして今度はゆっくりと唇を当てがおうとしてくるのだが……

「待った、どうしたんだよ本当に」

俺はそこで彼女を留めた。

本能とのぎりぎりのせめぎあいに、どうにか勝利したのだ。
なにより、キスやその先なんてものは、こんなふうにわけも分からずすることではない。

セレーナが起きていないことを確かめてから、ほっと息をつく。

俺の腰上に座ったまま俯くメリリの表情は、どうも少し浮かなかった。
そんな顔をされては、なにも理由がなくこんな暴挙ともいえる行為に及んだとは思えない。

俺は事情を聴くため、彼女を外へと連れ出した。

村の外れに作っていたベンチに腰掛けて横並びになる。

「だって、ぼっちゃまが悪いんですよ」

まずメリリは、こう切り出した。
うん、当然ながら訳が分からない。俺は自分を指さして、尋ねる。

「えっと、俺が……? なにかした覚えがないんだけど」
「……それ、本当に言ってます?」
「え、あぁ、本当だけど。悪い、なにをしたか教えてくれないか」

なにか勘違いされることでも言っただろうか。
それとも、セレーナとの関係が原因?

頭をめぐらせる俺に対して、メリリはここでうつむく。
夜の空気に溶かすような細い声で、言った。

「アルバぼっちゃまが、先にあたしを押し倒したんですよ? あたしは忘れもしません。まだ、ぼっちゃまの専属メイドとして働いていた頃。半年ほど前のことです」

かなり照れ臭かったらしく、彼女はそこまで言うと、膝を持ち上げ抱え込む。元から小さい彼女が今はより小さく見えた。

俺はといえば、逆に天を見上げるしかない。

冷静になろうと、夜空にため息を吐くとともに、心の中で叫ぶしかない。

クロレルの野郎、うちのメイド様になにしてくれてるんだ!!! と。

半年前といえば、まだ入れ替わっている最中だ。