……しかし、まぁとんだ災難だった。

「メリリの奴、なんてことするんだ。あのあとセレーナにもじとっとした目で見られるし……」

その夜、俺はベッドに入り目を瞑ってこそいるが、眠れない。
隣のベッドで眠るセレーナの浅い寝息を聞きながら、いまだに残る恥ずかしさにもだえていた。

だが、これは今に始まったことではない。

思えば再会してからの彼女は、ずっと様子がおかしいのだ。
これまで彼女が俺に仕えてきた10年近くも今にして思えば大概だったとはいえ、ここまでになると行き過ぎている。

会わずにいた期間が彼女をそうさせたのだろうか。
俺がその理由を考えつつも、どうにか眠りにつこうと目を瞑っていたときのことだ。

ふと、毛布の内側に風が吹き込んでくるのを感じた。
窓は締めたはずだから、なにかがおかしい。

もしかしたら侵入者の可能性もある。

俺はベッドのすぐに毛布から頭を出しベッドの頭に置いたナイフを手繰り寄せるのだが、そこで見たのはその手足を目いっぱいベッドの端に張って、俺を覗きこむメリリの姿だった。

この家は、三人で暮らすには手狭だ。
メリリには、脇に作った別棟で生活してもらっていたから、窓を開けたのも侵入者も彼女だろう。

「……なっ」

下からのぞき込むというのは、まぁとんでもないアングルだった。

薄手の寝間着は子供っぽく犬のワッペンなんかが縫い付けられているのに、こぼれんばかりの胸が強調されるばかりかこぼれそうにすらなっている。
彼女の長い髪は俺の鼻先までかかって、いい香りをさせた。

驚きもあって、心臓はばくばくとなっていたが、今この状況でセレーナを起こしてしまったら、いよいよどう思われるか。

「なにをしてるんだ」

俺はなんとか声を押さえて尋ねる。
彼女はそれに、ふふと小さく笑い漏らしてから答える。

「ちょっとお邪魔しにきました。ぼっちゃまとお話がしたくて」
「……その姿勢で? 腕、震えてるけど?」
「じゃあ、ぼっちゃまが降ろしてください。そのまま抱きしめて、毛布の中にあたしを引き込んでくれれば、あたしはそれでいいんです」

「な、なにを言うんだよ」
「冗談じゃないですよ。あたしだって、あたしだって、色々と覚悟を決めてここに来たんです。だから、だから、今夜はあたしと――」

メリリはそこまで言ったところで、力尽きるように俺の上へと落ちてくる。
その重みでベッドが沈み込み、身体が密着する。そうなると、あらゆる部位の形が伝わってくるうえに、熱い体温が伝わってきた。