その最高の未来を手に入れるには、兄のクロレルに「有能な次期領主」になってもらう必要があった。
そうすれば、魔法も使えない落ちこぼれである俺には、万が一にも当主の座は回ってこない。

つまり、地位に縛られずに済む……って算段だ。


入れ替わりがずっと続くわけでないことは、直感的に理解していた。

この入れ替わっている時期だけ懸命に仕事をすれば、あとはウハウハ幸せ人生が待っている!
そう思えば、毎日何時間でも仕事に打ち込めた。

……というか、そうせざるをえなかったのも大きい。
それまで約一年間、クロレルに任された都市・通称クロレルシティの統治は超めちゃくちゃだったのだ。

「クロレル様、警備兵の給金が安すぎるとかで、人が集まりません」
「商業施設から、税金を取りすぎではないかと苦情が入っています。町では、裏ギルドが結成されて闇市も開かれているとか……」
「あなた様の肝煎りで始めた再開発計画が、深刻な予算不足と近隣住民の反対で行き詰っています」
「近隣からの亜人排除計画は、どう進めていくのですか?」

などなど。
俺と入れ替わる前にクロレルが行っていた政策は、とんでもないものばかりだった。


記録を見ていると、就任して半年ほどはまともであった。
たぶん、父の付けたお目付け役がいたためだろう。

だが半年を境にその人が去ると、政策は豹変し滅茶苦茶なものになった。
それも、すべて父には報告されておらず隠ぺいされていた。

特にひどかったのは、過剰な税金だ。
窓をつけたり屋根を代えたら『取付税』、子供を産んだら『子供税』といったふうに、なにもかもに税金がかけられ、住民の生活が圧迫されていた。

視察のためにクロレルシティの街中を歩けば、

「お前のせいだぞ、どちくしょう!! 自分たちだけいい思いしやがって」

罵声を浴びせられる。ある時などは生卵を投げつけられ、またある時は財布を盗まれそうになったことも。

だが、ここで民を恨むのはお門違いというものだ、

それくらい街には余裕がなく、深刻な不景気に陥っていたのだ。
商店を開くのにもお金がかかるため、夜中にひっそりと店を開ける闇市が流行していた。

その中には化粧品などに、毒薬を混ぜて薬漬けにするようなものもいて、実に質が悪かった。

そうして集めた金が注ぎ込まれていたのは、クロレルの屋敷の改修費や、賭博などを行う娯楽施設の建築であるから、クロレルがどれだけ自分本位かは推して測れる。

彼は俺を『無能』と言うけれど、なんのことはない。
誰がどう見たって、統治者としてのセンスが皆無なのはクロレルのほうだった。