「それにしても、クロレルときたら、めちゃくちゃやるよな」
「……ちょうど私もそれについて考えていたところよ。あんなのを統治とは言わない。遊ばれてるのよ、街全体がおもちゃにされてる」

まさかここまでとは考えてもみなかった。
俺が険しく眉間にしわを寄せていたら、セレーナが言う。

「兄のやったことだからって、あなたが責任を感じることではないわよ。アルバ」

たしかに、表面だけを見ればそうだ。
罪を着せられ辺境地へと流された俺に、あの街のことを心配したってどうしようもない。

俺はできるだけのことをしたが、あのクロレルがその予想を上回って無能かつ自分本位だっただけのことだ。

だが、俺は知っている。
三か月間だけとはいえ、彼らの生活を間近で見てきたのだ。

罪なき民がされたい放題に虐げられているのをただで見過ごすことはできない。それくらいの良心は持ち合わせている。

なおも顔をしかめていたら、前に座っていたセレーナがこちらを振り返っていた。

「あなたって、ほんと。結局優しいんだから。自分のことばかり気にしてるみたいに振る舞うけど結局誰かのことを考えてる」
「……余計なこと言わなくていいんだよ」
「ふふ、そうね。でも、抱えすぎはよくないわよ。だって考えても見て。村は村で課題山積よ。人が統治している街のことを考える余裕あるの?」

……そうだった。
あぁ、やること多すぎん? ほんと余計な仕事を増やしてくれるものだ、バカ兄め。

俺は頭を整理するため、ふーっと息を吐く。
が、思う様にはいかなかった。

結局どちらも諦めたくはない。
俺が理想とするスローライフは、その陰で誰かが苦しんで代償を負わされるようなものではないのだ。
そんなことになったら、素直に楽しめないしね。

「ぼっちゃま、見てください、あたし! やっぱり風になってる! あははっ」

……あぁ、メリリくらいなにも考えずに生きられたら楽だったのだけれど。

ブリリオの背で立ちあがって、手を広げる暴挙に出るメイドを見て俺は遠い目になる。

が、彼女を見ていて思いついた。

「そうか……。別にあの街自体を救わなくてもいいのか」
「なにを言ってるのよ、アルバ」
「思いついたんだよ、同時にうまくやる方法。
トルビス村はまだまだ発展途上、これから片付けと開発を進めていくにはかなりの人手が必要だろ? 逆にクロレルシティは、あの状況だ。失業者だって多い。なら、うちに来てもいいっていう人たちがいれば、誘致すればいいんだよ。
今メリリが料理人として、トルビスに向かっているみたいに」

そうすれば、人手不足は解消するし、街の失業者たちを救うことにもなる。
まさに一石二鳥だ。

「……たしかに、いいわね、それ。トルビス村の周りは自然環境も豊かだし、村の周りを含めれば開発しがいのある土地だもの」
「だろ? なにも、それを今いる人たちだけでやる必要はないよ」

もちろん、こんな話を持ち掛けたところで応じない人の方が多いだろうとは思う。

なにせ街の中に入れる人間は『良民』で、それ以外は『下民』と見られている。その差別意識は根強い。

だが、そんな下らない選民意識を捨てて、トルビス村に来たいと思ってくれる人たちならば、きっといい人材になる。ともに暮らしていけるよき隣人になる。

「やりましょうか、それ。私だって、あの街の人々を放っておきたかったわけじゃないもの。それで、具体的にどうやって勧誘するの。
私たちが表立ってやるわけにはいかないし、そんな勧誘行為をすれば特別警ら隊も狙ってくるわよ」
「…………それは、だな。うん、これから考える」

希望の光は見えた。

名付けるならば、大移住誘致作戦!

俺はさっそくその方法を考えるのだが、難しいことに頭をひねったせいだろう。さっきまでは訪れる気配のなかった眠気が襲い来る。

こうなれば、どんな騒音でも関係ない。

『眠ったか、アルバ殿。よいことだ、よく休むがいい』

ブリリオのこんな声を聴きながら眠りに落ちたのだった。