とまぁそういうわけで、メリリも加わり俺たちは三人になった。

彼女に尋ねながら調味料類の買い足しを行うと、人目を気にしながら、侵入してきた壁の前まで帰ってくる。

「あぁ、ずるいですよ。セレーナ嬢。あたしが前でお姫様だっこされたかった!」
「……公正にじゃんけんで決めた結果でしょ」
「そうですけど、背中もいいんですけど、18の乙女としてはお姫様抱っこはあこがれてたんです~」

前にはセレーナを抱え、後ろにはメリリを背負う。しかも二人は食料や道具類など、大荷物まで持っている。

あまり人目につきたくなかったし、何往復もするのは面倒だ。

一回で済ませようと俺が横着した結果、こうなってしまった。手も足もかなりの重量が乗っかっている。

「ちょっと静かにしててくれよ、二人とも。ばれたら困るし、集中したいんだ」

重しをつけられているようなものだ。
魔力の質を高めなければ、この壁は超えられない。

俺は目を閉じて、肺から空気をすべて吐き出した。

魔力は心技体のすべてが揃ったとき、最大量を生み出すことができるとともに、その質が高まる。

だが正直、身体の疲れはほぼ限界に近かった。

その分は他で補うしかない。
俺は極度まで意識を集中させると、『高跳躍』を使う。

そうして無事に、壁の頂上まで上ることに成功していた。

「……今、アルバぼっちゃま跳んだ!? てっきり紐でもあるのかと思いましたよ!」
「そういえば、メリリにも秘密にしてたっけ」
「なにをです? あたしに秘密なんて」
「俺、実は魔法使えるんだよ」

えぇぇぇぇ!!!! という声を聴きながら、今度は壁の外、林の中へと着地する。

「死ぬかと思いました……、いや、いいんですけど。ぼっちゃまの背中で死ねるなら本望ですけど……!」

メリリは早口でつぶやき、まるで動物が木に登るときみたく俺に貼りつくが、大げさすぎる。

「早く降りてくれよ……」

彼女をどうにか引きはがした俺は、着地の際にできた足跡を消すため、土をならす。
その後はダイさんの住む小屋へと向かい、預けていたブリリオを引渡してもらいにいった。

そこで、彼らが林を駆けまわって遊んでいたときは驚いた。
いつのまにか、かなり懐いたらしい。

「もう、ダイさんもスカウトしたらどうかしら。しつけ役兼大工として」

セレーナの案は俺も名案だと思ったのだが、ダイさんはそれを固辞する。

「悪いな、アルバさん。俺は一応まだ雇われの身なんだ。クロレルに恩義も忠義もないが、俺が投げ出せば他の大工も苦しむ。すまない」

こうまで言われてしまっては、それ以上の説得はできなかった。
責任感の強いダイさんらしい。

「だが、いつかは必ずアルバ殿に力を貸そう」
「……ありがとう、ダイさん」

そんなわけで、未来の約束を交わしたのち彼に別れを告げた俺たちは、ブリリオに乗って三人で村まで引き返す。

すぐにでも眠るつもりだったのだけど、

「速い、すごい! 行けぇ、ブリリオちゃん~! うぉぉ、世界のどこかにいるお母さん!! メリリ、今、風になってるよ~!!」

なんて後ろでメリリがエキサイトしてしまってはそれもできない。

ほんと、どこから湧き出てくるのその活力。
もしかして俺たちから魔力でも吸い取ってる? 気のせいか、めちゃくちゃ疲れてくるんだが?

身体は重いが、目をつむっても寝られない。
瞼の裏側に浮かんでくるのは、ついさきほどまで見てきたクロレルシティの酷いありようだ。