入れ替わりが起きたのは、本当に唐突なことだった。

強くぶつかったわけでも、なにか怪しい魔法をかけられたわけでもない。

ある冬の朝、唐突に入れ替わりは発生した。
目を覚ますとクロレルの屋敷(趣味悪いほど豪華!)にいて、寝ぼけて鏡の前に立ったら、憎たらしい顔がそこには写っていたのだ。

はじめは、悪い夢だと思った。

しかし、それにしてはいつまでたっても覚めない。
最後には、俺の身体に入ったクロレルがキレ散らかしながら屋敷に押しかけてきて、これが現実であることを悟った。

入れ替わりは、なにを試しても解消されなかった。
それこそ馬鹿みたいに頭をぶつけあったりもしたが、痛みが残るだけ。むしろ本当に間抜けになった気分だった。

いっそ信じてもらえなくても、この事実を誰かに話してしまおうとしたのだが……それをやろうとすると、強烈な頭痛が襲ってきて、言えなくなる。どうやら言えば、死に至る呪いに掛けられているらしい。

そのため仕方なく、しばらくはそれぞれお互いになりきって過ごすこととなった。


「てめえが無能なのは百も承知だが、万が一にも俺様が次期領主の座から陥落するようなことをしたら、ただじゃおかねえからな」

とは、その時に首根っこ掴まれながら、クロレルから受けた忠告だ。

今となっては、なんとも節操のない脅しだ。
人にはこう指示しておきながら、自分は俺・アルバの身体で領民に暴行を加えるのだから。

だがそれでも俺は、クロレルに文句の一つさえ言わなかった(と言って、あそこまで酷い行動をするとは思っていなかったが)。
彼に指示された通りに、精一杯、有能な統治者らしく振る舞った。


なぜかと言えば、簡単な話、その方が俺には都合がよかったからだ。

俺は、次期領主候補になど絶対になりたくなかった。
毎日のように仕事に忙殺される父を見てきて、その大変さは十分に分かっていたためだ。

俺はクロレルと違って、権力など欲しくなかった。
欲しいものは、毎日ごろごろ寝て過ごせる快適な環境のみ。できれば、昼寝とお菓子の時間と読書タイムなんかも取れれば最高だ!

汗水たらして働いて、社交界で作り物の笑顔を振りまいて……なんて生活は論外すぎる。